いつも通りの稽古。
いつも通りの帰路。
少しばかり凝った食事。
いつも通りの・・・。
「」
「うん?」
「酒を何処へやった」
「今日はだめ。きのうたくさんのんだでしょ?」
「あれは必要不可欠なものだ。出せ」
怖い。
物凄く怖い。
怖いが、此処で怯むな自分。
じゃないと、この老体が、
アルコール中毒で倒れてしまう。
「だめだよ。おねがい」
「だめだ」
「なにがだめなの!」
「のまなきゃいかん」
「いかんことなんてないから!」
「まったく」
「わからずや!」
これがシャンクスなら簡単なのに。
だが、飲ませるわけにはいかない。
30過ぎた頃から、胃が退化してくるはず。
そこにアルコール分をあんな大量に飲んだら・・・。
「しんぱいなんだよ」
「己の身体のことくらい分かっている」
「でも・・・」
「なら、少なくしよう」
「なんぼん?」
「1ダースだ」
「だめ!!」
溜息が飛び出す。
こんなに、自分に必死になる奴は初めてだ。
かちゃかちゃと、つい先日購入した、
野菜や肉やらで造られた料理を片付ける。
「」
「だからだめだって」
「代わりにあれをつくるなら」
「あれ?」
「嗚呼」
料理は自分と似たり寄ったりなのに、
彼がその小さな手でつくる甘味が、
少しばかり気に入った。
「わかった」
向けられた笑顔に、笑顔を返す。
ただただ静かな時間。
その瞳が向く先に、あの赤い髪がいることは、
もう既に、分かっているのだが。
「帰りたいか」
「・・・・・・・・・うん」
「そうか」
寒天と黒蜜ときな粉。
それを口に運びながら、
海の向こうを見つめる彼に視線をやる。
自分のつくった寒天を頬張る彼。
昼間、鬼のように刀を振るうミホークとのギャップに、
いつも戸惑わされてばかりだ。
「でも、今はがんばる」
「そうか」
月明かりにてらされた2人の顔が、
綻んだ。