Anemone:遺棄
「ホントに良いのかい?」
「何度も、聞かないで」
もう、思い出したくなかった。
時折追いかけてくる黒い影に怯えて、
貴方の下へ逃げ込む。
貴方は優しく包んでくれて、
夜を、共に過ごしてくれたんだけど、だけど。
「御願いします」
「はいよ」
脳味噌を弄くられるのと、
人生を弄ばれるのは、
同義語にはならなかった。
君が消したいと言った。
だからボクは何も言わなかった。
忘れて欲しくないとも言わなかった。
何故って?
ボクが聞きたい。
ただ、面白くないことは分かっていたのに、
その医者の手を切り落とすことも何もせず、
彼女の中が変わっていく様をずっと、見ていた。
「?」
「ん?」
「・・・・・」
この瞳に映らなくなることは決して、
もうないのだろう。
ただ、瞳の奥に隠された、あの綺麗な闇さえ、
何処かへ、抜け落ちたようだ。
実際に、無くなってしまったのだけれど。
いつも通りのような笑顔。
いつも通りに手を組んで、街を歩く。
けれど、けれど・・・・。
「大丈夫そうだね」
「何言ってるの?変なヒソカ」
「早く、行こう?息が詰まる」
嗚呼、そうやって袖が引かれることはもう無いのだね。
「じゃあね」
「え?」
全て忘れたがっていた筈の君。
だからこそボクが特別であったのに。
涙を見せる君は、ボクだけの者だったのに。
死を知っているからこその強さも、
命を軽んずるからこその儚さも、
夜を恐れるからこその美しさも。
昼間の街のど真ん中で、
君の鮮血を浴びながら、
ただ、気持ち悪いとしか思えなかったよ。
「ヒソカはさ、あたしを殺してはくれないよね」
「傍にいたかったからね」
見付けたと思った。
過程ではなく結果を。
けれど君は、それすらイヤだったのかい?
「昔のあたしだったら、どうにかして殺してもらうだろうなあ」
「」
「ねえ、ヒソカはどんな人が嫌い?」
面白くないブツだと答えたのは、
いつだったろうか。
「そんなにボクに殺されたかった?」
答えは雨にかき消されたらしい。
閉じた瞳には映ることすら叶わない。
「死って一つの美だと思うのはおかしいよね」
「そうかな?」
「ヒソカだったら綺麗に飾ってくれそう」
「君が望むままに」
血塗れの君を抱いて、ボクは思うよ。
ホントに君が面白かったんだなってさ。
じゃなきゃ、こんな欲求不満を、感じるはず無いだろう?
だから欲の赴くままに、
戻ってきてくれなんて思わないように、
ぐちゃぐちゃになるまで、刻んでやった。
Thanks 10,000hit. To 某様.