Erica:心地よい言葉
「じゃあこれは?」
「それはさっきの方程式を使って、あとは風次第だ」
「じゃあ、今の風むきがログといっちしてるからこたえはこれ?」
「流石だな」
「ベンのおしえ方がうまいんだよ」
「のもの覚えがいいんだろう」
「ありがと」
なんて、さわやか且つ、生真面目なお勉強会が、
この船で、そう、あの変態の船で、長く続くわけがないのだ。
現に今も。
「泣きごえがきこえるのは気のせいだよね」
「そうだな。気の所為にしておけ」
かりかりと扉をひっかく音と、
しくしくといかにも文字と闇を伴っていそうな泣き声が、
ずっと聞こえてくるのだ。
犯人はもちろん・・・。
「シャンクス、うざいよ」
扉を開けて、眼を見て、にっこり天使の頬笑み付きで言ってやれば、
ノックダウンは必然で。
近頃それを楽しんでいるがいたりいなかったり。
幹部達は気づかぬふりをして、その純粋さを切に願っているのだが。
「うそうそ。どうしたの?用事?」
「今は暇な時間帯だろう。この間渡した航海術の書は眼を通したのか?」
「お前等が仲間はずれにするからだろ〜〜〜!!!!」
「行っちゃったよ」
「行ったな」
「行ってくるね」
「頼む」
号泣して走り去って行ったシャンクスの後を追う。
追うは追うけれども、捜しはしない。
だって、甲板に出ればほら。
「」
「どうしたの?シャンクス」
いつだって君が先に見つけてくれて、
自分の名前を呼んでくれるから。
大好きな、君の声で、呼ぶ自分だけの定義。
特別に感じ始めたのはいつからだったろうか・・・。
今度は本当の笑顔で、応えた。
手をつないで、食堂へ向かう。
今日のおやつは何にしようか・・・・。
「ベック、これ、進路おかしくないか?」
「合ってる。これは風による相違だ。見てみろ、なおっただろ」
「あ、成程な」
自分にとっては一瞬の、彼らにとっては10年の時が流れて、
けれども心は変わってなくて。
最初は見慣れない顔に戸惑いはしたけれども。
結局中身はおんなじなんだ。
そう、こいつも。
「ああああ!!シャンクス煩い!!」
「変わらねえだろう?」
「ベックの苦労が目に見える。お疲れ」
「お前がしっかり繋いでいてくれればな」
「この年で子守か?勘弁してくれ。それでなくとも保父さん役だったってのに」
「違うのか?」
「その役目はベックで十分だって」
そういいながら、扉のほうへと向かう。
船の構造も少し変って、ベックの部屋の扉の向こうは甲板。
そっちがどうなっているかなんて予想するに難くない。
ほら、もうすぐ君が名前を呼ぶから。
「〜〜〜〜〜」
「はいはい。今行くから」
「飯〜〜〜〜」
「1人で行けよ」
「俺は一緒がいいんだよ!」
「分かった分かった。分かったから泣きやめ。な?」
来ただろ?
と、手を差し出して、そのでかい図体を引き上げる。
勢いで触れた唇なんて、気にしていたらコイツの思う壺だ。
「反応が薄い」
「どっかの誰かさんのおかげで慣れたからな」
毎回毎回同じことをしていてよく飽きない。
肩を並べて、10年前のあの時のように食堂へ向かう。
「今日の晩飯なんだろうな」
「」
「寝言は寝て言え」
「もう3日も・・っ」
「ベックとの勉強が終わったらな」
触れた唇は、月だけが知る。
Thanks 10,000hit. To 夏様