Hibiscus:華やか



その影は、いつも、紅かった。




「おいおい。また来たのかよ」

「あなたが、来る、のよ」




停泊している自分の船から数十分歩いた。

またちらついた紅に振り返った。

幾週間か前から、何故か行く島々で姿を見せるその女。

船に密偵しているのかと探らせた事もあったけれど、

紅に淀む、女の影すら見つけられずに、結局これで3つ目の島だ。




「もうすぐね。終わるから。気に、しないで」

「気にしないで。と言われてもなあ・・・」

「身体で繋がった振りでもすれば、気に、せずにいられるかしら」




揺れる真っ紅な髪飾りを遊ばせて、

女が妖艶に頬笑みを造った。

俺だってそりゃあ、ナイスバディなお姉さんが大好きだし、

そこらで買ったりもする。

するんだが・・・。




「丁重にお断りする」

「殺さないのね。得体のしれない私を」

「お前さんは敵、じゃあなさそうだしな」




最高の殺し文句ね。

その言葉に振り返ったら、靡いたのだろう着物の残像だけを残して、

女はどこかへ消えていた。

ルフィと似ているなんて、柄にもなく思ったのはきっと、

短く切りそろえられた髪の所為だ。













「お頭、最近ぼーっとすること多くないか?」

「いつもの事だろう」

「なんだなんだ?俺の悪口かこの野郎!!」

「お頭が変なのはいつもの事だって話だ!」

「ヤソップてめえ!」




いつもの空気だ。

やりたい事をして、海を漂って、冒険をして。





「お頭あ!!海軍が!!!!!」

「野郎ども!!!戦闘だあ!!」




雄叫びが響く。

剣が鳴る。

なんだか今日は昂ぶっていて、

物凄くなんでも出来そうな気になっていた。

いつもなら、ベンのバックアップを確認してから突っ込むのだが、

今日は、1人でいけそうな気がして。

地面を蹴ったのと、

誰かが俺の名前を呼んだのと、

能力者がいたのだろう。

自然ではない風で、銃弾が飛んできたのとは、同時だったように思う。




そして、紅の影が散ったのも。




「もうすぐ終わるって、ね。言ったでしょう」




何故。

と、言葉にする事が出来なかった。

周りの時が止まったようで。

ただただ溢れて行くだけの血が、

まるでそう、最後の力で咲き誇る花々の様に、

花弁が舞っているように見えた。




「綺麗だ」

「最高の・・・」




殺し文句ね。と、いつもの台詞が聞こえる前に、

女は消えていた。

いや、散っていた。

その時見た笑顔は、今までのどの笑顔よりも、妖美で、無垢だったように思う。

ついさっきの事の筈なのに、

既に記憶がぼんやりしているなんて・・・。




「・・・らっ!お頭!!!!」

「っ!!悪いっっ!!」

「しかし、一体何が起きたんだ」

「は?」

「は?」




辺りを見まわしてみて気付いた。

軍艦は何処だ・・・。




「消えちまったよ」




花弁が散るように一瞬で。

海を除けば、あたり一面に漂う紅の花弁。

あの女の、血、だと思った。




「名前だけでも、聞いときゃあ、良かったかな・・・」




夢のような数日。




Thanks 10,000hit. To 某様