Lotus:疎くなった愛情



朝起きれば出来たてのホットサンド。

昼に戻れば淹れられた珈琲。

日付が変わってからの寝酒。

その他諸々。

それが、当たり前だと思うようになったのは、

一体何年前だろうか。




「シャ〜ン〜ク〜ス〜」

「わりい!わりいって!!ベック!お前からも言ってくれ!!」

「救いようがない。か?」

「おい!!」

「一体何回言ったら、
無茶と無謀の違いが刻み込まれるのかな?この脳味噌は」

、その辺にしておいてくれ」

「ベンは甘すぎるのよ。後ほら、この頃寝不足でしょ?
ハーブティーでも飲んで行きなさい」




お頭の真っ赤な頭をシェイクしている、

我が船が誇る船医の手を、

止めるが為にそっと包んだ。

気付いてくれるその優しさに俺は、

既に溺れていたんだろう。




「さっさと出て行け。この莫迦船長」

「いって!!それでも白衣の天使か!!」

「天使って柄でも年でもないでしょうが」

「ベックの天使かあ?」

「そんなに開かれたいのかしら?」

「うおっ!メスなんて投げるな!!」

「じゃあ、未だ敵船と戦ってる子達の所に行きなさい」




言われなくとも!!

そういって飛び出して行く彼を、

2人で見守っていこうと決めた。

2人で居ることは、

身体に右腕と左腕がくっついているくらい当たり前のことで、

何かを求める関係は、もう終わったんだ。




月が昇る頃に、ようやく集結した今日の戦い。

怪我人の手当もようやっと終えて、

甲板へ向かう脚を、止めて、しまった。



「嗚呼、莫迦者め」




好きと言われなくなったここ数年。

分かっていると、知っていると思うけれどそれでも、

言葉にして欲しいだなんて奢りを、

彼に押しつけることだけはしたくない。

2人で赤髪を支える。

私は彼を支える。

同時に誓ったあの心を崩すことだけは、

何があってもしたくなかった。






「シャンクス。何やってんの?こんなところで」

「お前こそ、治療は終わったんだろ」

「片付けしてて悪い?主役が居ないと、新人が困るわよ?」




くるりと入ってきた赤髪に背を向けて、

机の上に拡がった書類、医学書云々を片付け始める。

すっとさした陰に気付かなかった、

涙を隠すのに必死だったから。




「俺のものになれよ」

「ちょっと、酔って絡むなら新人にして。重い」

「毎晩泣いてるの知ってるって言ったら?」




本当に莫迦なら良かったのに。




「好きだ。いつだって言ってやるよ」




欲しい、言葉をくれる。




「止めて」

「本気だぜ?」

「シャン・・」

・・・・何を、やってる」

「盗っちまうぞ。って事だ」

から離れろ」

「やなこった。泣いてる此奴を見たくない」




泣いて、いたのか。




「知らなかったんだろ?」

「やめて」

・・・」

「お前の所為だぜ?」

「やめて!!」

「次はないと思えよ。ベン」




扉を閉める音がやけに響く。

そこから一歩も動かない彼に、

なんと声をかけて良いのかすら、

今の私には分からなかった。









医務室に響く私の名前。

特別に聞こえた過去。




「好きだ。愛している」




その言葉で安心する私は、

もう貴方無しでは生きられないのに。




「言ってくれ。頼む。
俺は、お前のことだけ分からない」

「違うの。イヤだったのよ。
こんな、青春真っ盛りみたいな。私達はもっと・・・」




違うところで一緒にいられると・・・。

久しぶりに肩から回された腕。

背中に感じる彼の温もり。




「不安に、させたな」

「ベンが悪いんじゃない」

「俺が悪い」

「2人とも、悪いって事にしましょ」

「嗚呼。そうだな」




お互い考えてることが分かる。

だからこそ要らない言葉。

求めるようにキス。

今までが埋められていく音。




此処にいてくれて有り難うを、唇に乗せて。

音を立てて離れたそれを、

もう一度、重ねた。




Thanks 10,000hit. To アイリ様.