Narcissus:自己愛
私は断じて一般人だと、
言い張りたいと思います。
どれだけ暗殺一家と通じていようが。
「また来たよ」
「帰って下さい。直ぐに帰って下さい。お出口こちらですから」
「暗殺後だけどシャワー浴びてきたから」
「そうゆう問題ではないんです」
げんなりと項垂れた彼女は、・。
小さな下町のパン屋。
売れないパン屋。
そんな日々が懐かしいと、
普通にレジに腰掛けている彼を見て、
思わない日は最近全く持ってない。
「今日も売れないの?」
「ええ。そうですね」
「買い取ってあげようか?」
「結構です」
ぶらぶらと長すぎる足を弄びながら、
彼が居座るようになったのは、
はてさて何週間前からだったか。
「そういえばさ、俺、手紙送ったよね」
「受け取った覚えは御座いません」
確かに来た。
つい先日だったか。
真っ黒い封筒に、真っ赤な蝋で・・・・。
不吉すぎて、直ぐに燃やしてしまったことを、
鮮明に覚えているくらいだ。
「まあいいや。あれ、俺の誕生日パーティーの招待状」
「お誕生日だったんですか」
「うん。今日。行こう」
「はい?」
「俺のために来るでしょ?」
「行きませんから」
「ドレス持ってないの?じゃ、今から買いに・・」
「好い加減にして下さい!!」
棚のパンが、
少しでも美味しく見えるように並び替えていた手を、
思いっきり、たたきつけてしまった。
勿論、パンは軽いから、辺りに散らばってしまうわけで。
パンが散らばる中で、
真っ赤になって怒っている自分は、
至極滑稽なのではなかろうか。
そんなことも分からないくらい、
はかつてないほど怒っていた。
「私は、普通に生活を送りたいんです!
売れなくても良い。好きな事して、ちょっとご近所さんと仲良くなって、
いつかのほほんとした老後を迎えて、死んでいきたいんです!!」
「へえ」
「もう、本当に来ないで下さい!!」
これ以上、私を掻き乱さないで。
「なんで?」
「だからっ・・・!」
「俺が来たいから来るんだけど?」
それが最大の理由で、
それを退けることになる理由なんてこれっぽっちもない。
「貴方、どれだけ自己中心的なんですか」
「自分第一で何が悪いの?
嗚呼、は自分第一じゃないんだっけ?」
「いや、それは・・・」
先程まくし立てた理由は、
これでもかと言うほど自分本位なものばかり。
まさかまさか、生き様を暗殺者に諭されるなんて・・・。
それこそが、自分の中にある答えを、
何かと引っ張り出してきていることに、はまだ気付かない。
「とりあえずドレス。その後、俺が化粧してあげるから」
「貴方が化粧するんですか!?」
「貴方じゃない」
「?」
「イルミ。俺の名前、イルミだから。ほら、呼んで」
「ちょ、手、はなっ・・」
「イルミ」
「イルミ、手。手を離してください」
「いやだ。行こう」
溜息をつきつつ、
彼のそんな誘いに、乗ってしまう日常が来るのは、
後、何週間先だろうか・・・・。
Thanks 10,000hit. To ハル様