Rose:私を射止めて



そいつと初めて会ったのは、

聖地、だった気がする。

それはもう、何年も前のことのような錯覚さえ。

たった、数ヶ月前のことだというのに。









兵器。

だと、言われた。

世界に5種しか確認されていないという、

飛行能力を有する悪魔の実。

そのどれとも合致せぬのが、この、という、女。




「何?」

「鷹の目と此奴を潰してこい」




宜しくも何もなく、

すたすたと船に乗っていく、その女。




「仕舞え。邪魔だ」

「貴方だって、武器を身に付けているでしょう?」

「俺の船に乗るからには従え」

「別に乗らなくても着いていくから結構よ」




ふぁさりと羽ばたかせた、

せなに生える、蝶々の翅。

彼女の戦い方に、気も、快楽も何も無かった。

ただ其処にある、夢を魅せる。

逃れられない世界。




気分が悪い、暇つぶしだ。




「何故、政府にいる」

「そっくりそのままお返ししましょう?鷹の目、さん?」




ただ、一舞。

羽ばたかせるだけの戦いを、戦いとは呼びたくない。




「理由なんて無い」




幾度目の同行だったろう。

幾度目の質問だったろう。

そう、が応えたのは。




「考えることに疲れたのよ。だから、従ってるの」

「・・・・・・・」

「貴方なら、私を殺してくれる?」

「断る」

「でしょうね」




自嘲気味に笑った彼奴の顔が、霞んで見える。

彼奴の使う、能力のように。

消えてしまう、気がした。

いつからだっただろう、

同行を楽しみにする自分がいることに気付いたのは。




「蝶々の標本に慣れれば良かったのに」




そうすれば、何も考えずに済んだのに。

一つの大きな海賊船の上で、今日もまた、一舞。




「それが、主の願いか」

「だったら叶えてくれるの?」




ふわりと船に降り立ったを見て、

今はもう、この世には存在しない、

その生尽きるまで、ユメの中を漂う海賊船を見やる。

の背中で翅が揺れた。




「叶えて、欲しいか?」

「貴方、年甲斐もなく相当意地悪ね」

「自覚はしている」

「叶えてよ」




一舞への涙より、

彼奴の瞳に映りたいと、思ったから、

連れ出して、繋ぎ止めた。




「大事な兵器だ。管理は怠るなよ」




帰さなかった。

自分の船に乗せて、二度と。

あの、聖地へ。




「有り難う。ミホーク」




そう笑った彼奴は、俺だけのものだ。




Thanks 10,000hit. To ミリル様