知ってる。何故と聞きたかったが、

話が長くなるであろう事が推定される。

警戒し始めた団員のオーラに反応せず、はクロロを見つめていた。




「ウボォーギン」

すっ。

「シズク」

すっ。

「ノブナガ」

すっ。

「マチ」




すいっと上がった指は、まるで羅針盤のように、

言われた名前のヒトを指してゆく。

長くなる話は、彼女が筆談を覚えてからでもかまわないだろう。

そう、思った。

警戒を解かない団員に呼びかけ、任務に向かう。

3人をアジトに残して。



無言で団員の出ていった方を見つめたは、

見えなくなったと同時、すっと踵を返して、

ガラクタの中から机になりそうなものを引っ張り出して、

五十音表を広げた。




「文字、読めないの?」

こくん。

「厄介だね」

こくん。




笑った・・・・のかもしれない。

さらさらのロングヘアーに包まれた顔は見えなかったけれど、

たった一つ見える瞳に、何故かふと、そう思った。




「ボノレノフも何か話せば?面白いよ?」

「興味ない」




腕の包帯を巻きなおしながら視線も合わせず答える。

すいっと落ちた影に気付けなかった自分に驚いた。

そうか。

彼女はまるで、絶のスペシャリストのように、

存在が感じられないのだと、今更ながらに気がついた。




お揃い




するりと落ちた袖から除いた、黒ずんだ包帯。

目を見開いたのは2人ともで。

その後に見せた不器用な笑み。

人を殺すことが嫌いなのではない。

ただそう、なんとなく相容れないと、紙面上だけで凝り固まっていたのは自分。



あの笑顔かもしれない表情が、

なんだと思わせてくれたからかもしれない。




「いつ巻いた?」

覚えて・・・・・ない

「消毒なんてあったか?」

「ぼくには覚えないよ」

「だろうな」




そこら辺を捜索すれば、出てきた薬箱。

化膿し始めていた蚯蚓腫れに消毒を落とし、

新しい包帯を巻いてやればほら、また、不器用な笑み。




・・・・ありがとう

「いや」

「君、今まで幽閉でもされてた?」

ふるふる。

「ヒトとは接してなかったね?」

こくり。

「じゃあ、慣らしていこう」




首を傾げたその姿が、あまりにも人形っぽくて、

噴出した両人は、あまり笑わないとされる自分達を、

ここまで笑わせる事の出来る彼女は、

やはりつわものだと思ってしまった。



かわいてひっついた咽喉。

今まで必要のなかった水分を少しだけ、口の中に含ませて、

あたしは、言葉を発してみようと思った。




ボノ・・・レノ・・フ?

「なんだ」

コ・・ル・・トピ

「うん?」

覚えた




明るい。

お互いの表情が見えない。

けれど、ふっと空気が動くのがわかる。

少しばかり、考える事を思い出してもいいかもしれない。



それからは、文字の練習や話に花を咲かせて、

と言ってもやはり、はあまり声を発しないけれど。

両人の生まれ故郷の事や、

今までの珍事件なんかを聞いてると、

もしかしたら、純粋ってこうゆう事なのかもしれないと思えるくらい。

昼を過ぎれば自然とまぶたの閉じる瞳。




「寝てもいいぞ」




ふっと微笑んで、がらくたに身を傾ける。

何処でも眠れる。

夜以外なら。

2人に挟まれて聞こえる寝息。

なんて静かな時間だろう。

それも半刻と経たず壊されてしまう事になるのだけれど。




「意味ねえ!!!!」

「意味はあるよ。盗めたじゃないか」

「で?誰がこんなパズルを完成させるんだよ!」

「団長?」

「・・・・・・・・・」




ぎゃあすぎゃあすと叫んでいる巨体組みを通り抜けて、

アジトに入ったクロロは目を見張った。

中睦まじき、3人の姿。

いつの間に、彼女が見てくれるようになったのか。

自分は一夜かけても、感情を取り戻せなかったのに、

たった数時間一緒にいて、

2人は彼女の不器用にでも感情の表現方法を導き出したのだ。




「団長!!聞いてるんですか?!」

「悪い」

「で、誰が、このパズルを完成させるかですよ」




奪ってきた宝石の惑星という絵画。

基、其れになるはずの1万ピースというパズル。

完成すれば価値はある。




「団長」

「なんだ」




珍しくもボノレノフとコルトピが口を開いて、

喚いていた巨体組みもそちらを見つめる。




がやりたいそうだよ?」

?」

「彼女の名前、団長、知らなかった?」




知らなかったと言えるはずもなく、

本当に大きな箱だけれど、

ボノレノフにそれを貰ったが、

不器用に笑って、ありがとうと発する声が、頭にこびり付いて離れなかった。