笑顔で手を振るに、団員達は止まってしまった。

何の戸惑いもなく地面を蹴った彼女は、

まるで其の向こうに待っていてくれる何かがあるように。

安心しきった顔をして。

そんな彼等の横を、飛んだのは・・・・。



服が揺れる。

風が唸る。

髪が舞う。

壁をけり、速度を加速させて、

目の前で微笑んでいる彼女の腕を取り、

なんとかその身体を横抱きにすると、

クロロは間近に迫った地面に、土埃を舞い上げさせた。



上から次々に降って来る団員達。

腕の中のは、眼を見開いてこちらを凝視している。

刹那、その瞳から溢れ出した涙は、何に吸い込まれるでもなく、

地面にしみを、次から次へと作ってゆく。




、大丈夫か?」

こくり。




良かったと笑った彼を見た。

にやりと笑った彼を見た。




「笑っていたの」

「?」

「安心しきった顔で、あたしを見て、やっと、さよなら出来るって手を振った」

「・・・・・・何の話だ」

「父さんと、母さん」




の口調が戻っている事よりも、

同じ体験を向こう側でして来たのかもしれない彼女を想う。

涙をとめどなく流しながらそう話すに近づいたのは、

両親代わりと言ってもおかしくない2人。




「大丈夫か?」

「大丈夫」

「怪我してない?」

「平気」

「心配させるなよ(ないでよ)」

「うん」




愛を下さい。

溢れんばかりの愛を下さい。

ただ、純粋な愛を下さい。





「戻るか」

「そうね」

「腹減った!!」

「はいはい」




ぞろぞろとアジト内に帰っていく面々。

クロロに抱かれたの両隣に着くのはパパとママ。

どっちがどっちか。

それはまあ、気にするところではない筈だ。




「クロロ」

「なんだ」

「クロロに拾われて良かった」

「なにを突然」

「うん」




会話の成り立ってない返事。

ただ、首に腕を回されれば、悪い気はしなくて。

もう一度を抱えなおすと、

少しばかりスピードを上げて皆に続いた。

其の後ろで、両親が家族会議を開いていたのは内緒。









そんな奇跡の後は、

静かで優雅な朝食の時間とは、行かないようだ。




「てめ!!それ、俺が取っといたサーモン!!」

「置いとく方が悪い」

「好きなもんは最後に食べるんだよ!!」




ぎゃあぎゃあと、いつもどおりの朝ごはん。

とりわけた自分のサラダを口に含みながら、

はふっと笑みをこぼした。




「クロロ」

「なんだ」

「ヨークシンのオークション、行くんだよね」

「話してあったか?」

「ううん。知ってた」




何かが起こる事も知ってた。

そう、含まれているような気がした。




「教えないよ」




口を開けたクロロを一瞥して、

良く焼けたソーセージをかりっとかじる。

特有の音がはじけて、飲み込みながらまた、こちらを向いた。




「知りたくないでしょ?」

「まあな」

「知ったところで変わらないから、教えない」

「聞く気も無い」

「だったらいいや」




眩しいくらいの笑顔で笑ったに見惚れて、

フォークですくって口元に持っていったトマトがポロリ。

慌てて救いなおして食べたが、

まあ、気づかれていない筈がなくて。




「汚いよ団長★」

「まったく。良い大人がなにやってんだよ」

「お前には言われたくないね」

「おい!」

「結局いじられキャラなんだ?」

!黙れ!!」

「怖いよ。シズク」

「殴ってあげようか?」

「いっそ、一度死んだ方がいいんじゃない?」




もう既に、クロロのことはどうでもいいらしい。

其の間に静かに席を立って、

扉の方へと向かう。

後方で今度は、今日の予定をからかわれていたり。




「どうした?」

「ううん。碧いね」

「夏だからな」

「空は冬の方が綺麗なんだよ?」

「?」

「でも、碧い」




それは、あたしが始めて見上げた空の色。

しばしの沈黙の後に響く、

ガラスの割れる音、何かを落とした音。

叫び声、怒鳴り声、呆れ声。




「止めなくていいの?」

「子守を担当した覚えはない」

「じゃあ、あたしも範疇外?」

「何が聞きたいんだ」

「一緒に行こう」




詰まった答え。

差し出された掌。

嬉しすぎて、緩んだ頬。



笑い声が響く、廃墟。