ただ座って、時計の針を見ながら、

右から左へ通り抜けていく言の葉に興味を示す事もなく、

彼のリミットを思おう。



、待たせた」

「ううん。良い人たちだね」

「センリツの言う事を疑う奴などいないからな」

「そっか」

「で」

「ウボォーと戦うなら、あたしも連れて行って」




眼をあわさないようにした。

疑問と疑いの入り混じった視線など、見たくなかった。

自分が、否定されているような感覚に陥る。




「どうゆう意味だ」

「あたしは聞かなきゃいけない。だから、着いて行く」

「訳を教えてくれ」

「答えが欲しい」




何もわからない会話。

とりあえず、彼女が今、何が起きていて、

自分が何をしようとしているか知っている事だけは判った。




「連れて行くわけには行かない」

「でも、ウボォーはきっと連れてってくれるよ」




ふと浮かび上がった情景が、彼の瞳を紅くさせる。

仇が。

目の前に、存在している。




「察しの通り、あたしは蜘蛛と繋がりがある」

「いつから」

「この世界に来てから」

「は?」

「とりあえず、怒りを静めて。
ウボォーと戦うとき、全力でいてもらわなくちゃ困る」




信じられない御伽噺。

紡がれる言の葉全てが、自分の脳みそを破壊していく気がする。

知らなくて良かった。

こんな事実。

少しばかり仲の良い、ハンター友達でいればよかったのに。




「もう、遅いよ」

「判っている」

「うん。クラピカは頭がいいから」




彼女の浮かべる笑みは、とても美しくて、

ゴンやキルアやレオリオと同じような感覚さえ持ち合わせるのに。

背後にある蜘蛛の影が、

先ほどからずっとちらついている。

自分を嘲笑うかのように。




「クラピカは神様っていると思う?」

「いる筈がない」

「あたしも前までそう思ってた」

「今は信じると?」

「どうかな。どっちでもない」




しんっと静まり返る部屋に2人。




は・・・・こうなる事を知っていたのか」

「知ってた」

「邪魔する気なら、今、戦わざるを得ない」




そう言って、右手を掲げるけれど、

は至って平然と、

継ぎ接ぎの分身を抱いて、こちらを見据えている。

全てを、見透かしたような其の瞳で。




「ウボォーが死にたくないなら助けるかもしれないけど、
その状況になってみないと判らないって言ったから、あたしも判らない」

「不安の芽は摘んでおくものだよ」

「クラピカは、何がしたいの?」

「仲間の仇を取る」

「命は自分だけのものなのに?」

「同胞だ」

「でも、他人でしょ?」




判らないの。

貴方が其処まで、誰かに執着する理由が。




愛した仲間だからだ」




キ―――――ンっ




「っ!!!」

「怒りは収まらない。決して。奴らを皆殺しに・・?」




耳を塞いで、俯いて、

必死に空気を求めようと、口を開閉する彼女。

明らかに先ほどと様子が違う。

人形が床に落ちるのと同時、の身体も、がくりと傾いた。




!!」

「・・・っ!はっ!」




判る筈がない。

だって、あたしは、愛して欲しかった側だもの。

誰も愛してないもの。

愛なんて、知らないもの。

呼吸が、出来ない。

助けて・・・・・・。




!落ち着け!息を吐き出さねば!!」




声が遠のいていく気がする。

其の時、さらさらの髪の毛が黒に見えたから、

咄嗟に、抱きついた。

ゆっくりと、ゆっくりと波打つ命。

不器用に回された腕が、彼を連想させて。




「ゴメンなさい」

「落ち着いたか?どう・・」

「クラピカ、電話する事許して」

「あっ嗚呼」




まだ続く耳鳴りを消したかった。

安心したかった。

声が聞きたかった。

愛を知らなくても、一緒にいられる彼等の。




「クロロ・・・」