彼女の口から飛び出した言葉に、
我を忘れそうなくらいの怒りを感じた。
さっきまで自分にしがみついて、
壊れそうだった彼女が、
彼の名を口にした途端に零した安堵の笑み。
『何かあったのか!!??』
「何にもないよ。平気」
『なら、どうした』
「耳鳴りがね。久しぶりすぎて、ちょっと、混乱しただけ」
『今何処にいる!?直ぐに駆けつけ・・』
「平気だってば。クロロの声聞いたら、安心したから」
後ろで聞こえるボノやコルトピの声に混じって、
団長しっかりしてくださいと、パクノダ。
「もう少し、単独行動してる」
『ウボォーもそこにいるのか』
「いないよ。伝える事でもあるの?」
『いや、ない。気をつけろよ』
「うん」
もう声は聞こえないけれど、携帯電話を握り締めて、
ふうっと息を吐いて、吸って。
「・・・・」
「ゴメンね」
「何故、お前が、あんな奴等と・・・」
「それ、侮辱ってとってもいいの?」
「嗚呼」
「そう。じゃあ、クラピカにも聞く。どうしてそんな奴等の為に復讐なんて?」
飛んできた掌を避ける事もせず。
部屋に響いた乾いた音。
頬がアツク、掌型に燃える。
「・・っ」
「そうゆう、ことでしょう?
さっき話したこと聞いてた?同じだって判るよね?クラピカなら」
自分の居場所を、穢される。
言葉で。
しばしの睨みあい。
ふっと顔を背けたのは、が先だった。
「来た」
「?」
自分には判らない気配を感じ取っているのだろうか。
それから直ぐに大きくなり始めた殺気。
はずっと、扉の方を見つめている。
「なんだ、も来てたのか」
「うん。一緒に行こうと思って」
「こいつはオレの獲物だぞ」
「手は出さないと思うよ」
「出すなよ」
そう言って彼は豪快に笑った。
約束は出来ないけれど、
貴方の出す答えは決まっているのだろうから、
だから、そう。
手は、出さないで終わるのでしょう。
吹き荒ぶ荒野で、2人が飛んでいる。
はクロノスを抱いて、それを見つめているだけ。
予定通りにことが進んでいることだけが、
を安心させる唯一の種。
「本気で手を出さないつもりか」
「ウボォー怒るもん」
「当たり前だ・・・・・ろっ!!」
実に楽しそうだ。
こんなに生き生きした彼を見るのは、本当に久しぶり。
皆、生きるという事の楽しみを知ってる。
知っているから、ほら、捕らえられても、焦りはない。
もうすぐ彼は死んでしまう。
ストーリーが終わるのだ。
自分の知っている・・・・だが。
質問される度に殴られる。
心臓に、針が刺さる手前で、が立ち上がった。
「ウボォー、生きたい?」
「いや」
「そっか。どうぞ、続けて」
不可解な顔をしながらも、
クラピカは鎖を刺して、答えを間違った彼の心臓は止まった。
「何故、助けなかった」
「ウボォーが生きたくないって言ったから」
「そんな理由で!!」
「そんな理由?死にたいのだったら死ねば良い。
生きたいのだったら生きれば良い。勝手にすれば良い。自分の命なんだから」
「っ!!」
「どうして死にたい人を生かさなきゃいけないの?
どうして死んじゃダメなの?答えなんてないんだよ」
「命は・・・・尊いものだ」
「クラピカ、貴方の価値観を押し付けないで。
あたしにとって命は、いつでも終わらせるのことの出来るものでしかない」
「しかし・・」
「この世界で生きていくなら、勝つしかない事、
ウボォーが良く知ってた。クラピカに勝てなかった自分はもう、
蜘蛛の脚としての役目を果たせないと思ったから、もう、良いって」
なのに、貴方は負けた人のことばかりを庇う。
そう、言われているような気がした。
ぽろぽろと泣きながら、訥々と語る彼女は、
死が何たるものであるか知っている。
それは、確信。
「仲間の死を嘆くのか」
「他人の死は、どうして重いのかな。
自分の死はあんなに軽かったのにね。永遠の疑問」
そっと、瞳を閉じさせた白い手は、
月に照らされたマリアのように神々しく、
それでいて、死神のように冷え冷えとしていた。