「うん・・・・」

「落ち着いたかい?」

「大分。2人は?」

「ノブナガが見てるよ★ボク等もそろそろ出発だ」

「判った」




ウボォーを見殺しにしたとわかったら、

ノブナガは自分を嫌うのだろうか。

今は、其の事しか頭にない。

ふら付く身体をヒソカに支えてもらいながら立ち上がって、

皆の元へと戻った。




「何分くらい寝てた?」

「30分くらいじゃない?」

「あたしはこれからどうしたらいいの?」

「オレとシズクが団長の近くまで連れて行くことになってる」

「そこからは団長に任せるよ」

「判った」




あたしは今宵、何度壊れそうになって、

それを留めなければいけないのだろう。

怖くて怖くて仕方ないけれど、

一度は切り抜けてきた路。




「行こっか」

「ん」




用意された車に乗り込んだと同時、

被された布で、は瞬く間に真っ白になった。

布の波に溺れそうになりながら、

なんとか出口を見つけて顔を出す。




「ビルの中に入るまでそれを被ってろ」

「フランクリン・・・でも・・・・」

「これでも心配なんだよ」

「ゴメンね」

「被ってろ」

「はあい」




間延びした返事で了解を知らせて、

もう一度布の出口を閉ざした。

けれど聞こえてくる声を塞げるわけではない。

しばらくすれば、爆発音と、誰かに抱かれる感覚。




「見るな」

「・・・・なんだか、平気みたい」

「なんだ。心配して損した」

「シズク、損したはないんじゃない?」

「ここからまっすぐ南に行って、上だ」

「了解」

「気をつけてね」

「うん」




既に命を落としたものたちを越えて、は走った。

自分の出せる全速力で走った。

何故か、急いだ方がいいような気がしたのだ。

窓ガラスを割ってビルの中に進入すると、

そこからはエレベーターに乗ってゆったりと。

大きな念が居る。

大方ゾルディックの2人だろう。




「クロロ、開けて良い?」

「待て。死体が・・」

「開けるね」

「見るな!」

「大丈夫だよ」



飛んできて、眼を覆い隠してくれた彼の手を、

そっと外して微笑む。

目の前に広がる残骸も、ただの景色にしか見えなかった。




「大丈夫なのか」

「うん。多分、他人の死を理解したからじゃないかな」




君が教えてくれた。




「今まで何処にいた」

「アジト」

「其の前は?」

「友達のところ」

「其の友達は・・」

「察しの通りだよ」

「ウボォーの最期を見たのか」

「見た。生きたくないって言ったから、助けなかった」

「そうか」




俯き加減で話せば、クロロがそっと抱きしめてくれるのを知っている。

また、ぽろぽろと涙が零れた。

息苦しさを感じながら流したあの滴みたいに。

なぜかは判らない涙。




「ただ、儀礼だけで手を合わせたの」

「嗚呼」

「ノブナガ、怒るかな」

「聞いてみろ」

「まだ、嫌われるのは怖い」




やっと手に入れた場所を、自分の手で崩したくない。

壊したくない筈なのに、見殺しにした。

自分のために生きてもらうなんてそんな傲慢な事、

には出来る筈もなかったのだ。

死にたかった自分を知っているから。




「オレはお前を捨てない」

「うん」




見えるようで見えない透明な砦。

そこかしこで聞こえる断末魔が、下手糞な管弦楽に聞こえて仕方ない。




「もうちょっと綺麗な鎮魂歌思いつかなかったの?」

「ウボォーはこれが好きだからな」

「壊れかけの弦楽器みたいな音」

「嫌いか?」

「景色は綺麗なのに」




まるで、花火が地上であがっているような間隔に陥る。

静かなレクイエムというより、

鮮やかなフィエスタ。




「供え物は麦酒?」

「判ってるな」

「予想はつくよ」




とくりとくり。

鼓動の方が、もっともっと綺麗な曲だとは思った。

ふと、移動しようとする彼を見上げて、

思ったことだけ口にする。




「クロロってさ」

「なんだ?」

「オールバックにすると老けるね」




指揮が少しだけ、狂った。