「下がってろ」
「イヤだ」
「下がってろ」
「イヤだ」
「下がってろ」
約10分、同じ会話を繰り返している。
ゾルディック家の2人が、入る部屋を間違えたかと、
一度扉を閉めたほどだ。
「ほら、来たよ」
「下がってろ」
「2対1はきついって思ってるくせに」
「下がってろ」
「じゃあ、イルミのトコにお嫁に行って、クロロと今から戦う」
「其れはダメだ。まだ早い」
「あたしもう19。イルミだって適齢期だし」
緊張感というものは皆無らしい。
痛いほどに飛ばされている殺気も見ぬ振り。
「イルミが話していたのはお前か」
「そうだと思います」
「可愛い娘さんじゃないか。わしゃ大賛成じゃぞ」
「親父・・・・・」
「ダメだと言ってるだろ!」
「あたしはクロロの娘じゃない!!」
「どうでも良いが、とりあえず始めるとしよう・・・かっ!!」
格段に違う速さと重さに、は一発目で壁と激突寸前だ。
けれど、頭に入っているシュミレーション。
絶対に無理をする拾い親を庇いながら、
杖を取り出した。
「杖術を使うのか。珍しい」
「シルバさんにとっては、蚊が止まったくらいにしか感じないんじゃないですか?」
「筋力不足だな。鍛えればもっと強くなる」
「をむきむきにする気は無いぞ!!」
「ちゃんと自分の相手見てよ!!」
「お前もな」
一瞬にして目の前から消えたシルバ。
背中に感じた打撃。
ぐらりと歪んだ視界。
倒れるわけにはいかない。
「(クロノス!!)」
「ほう」
「なかなか面白い能力じゃの」
自ら飛び込んだクロノスの口を通り抜け、
元居た位置へと戻る。
気分は悪いが、闘えないほどではない。
選手交代らしく、今度はゼノがこっちにやって来る。
「嗚呼。神様。どうかクロロが無理しませんように」
「はは。こうなってもまだ奴を思うか」
「ゼノさんは見たことないから言えるんです。調子の悪くなったクロロを」
「とゆうと?」
「物凄く、物凄く世話が焼けます」
「信じてもない神に祈るくらい嫌か」
「あたしは信じてますよ」
心に大打撃を受けているクロロを無視して、
なんとか杖で攻撃を避けながら壁際へ。
早く質問に答えてもらわねば、
クロロが怪我をしてしまう。
痛そうだったし、イヤだ。
自分が血を見ないために、
自分と一緒に居てくれた。
守ってもらっていた今まで。
教えてくれた、見殺しにした彼の代わりに得た、
他人の死を受け入れるココロを、ここで活かさずどこで活かす。
「ゼノさんは信じてないんですか?」
「全くの」
「シルバさんも信じてなさそうですね」
「俺は信じてるぞ」
「へは?」
予想外の答えに、間抜けな声を出して、防御の手を緩めてしまった。
まあ、それが命取りになるのが普通なのだが、
壁に当たる寸前で、クロノスに飲まれれば、
それも回避できるわけで。
「うむ。良い動きじゃ。イルミの嫁として認めよう」
「認めなくて良い!!」
「クロロ莫迦!!」
「時間もないことじゃし、2人まとめて捕らえるか」
はシルバに脚を取られたクロロの方へと飛んだ。
勿論故意にだ。
そうすれば、ゼノが念で攻撃してくれる筈。
イルミの暗殺が終われば、この戦いも幕を下ろすのだから。
「シルバ!離れろ!!」
「くそっ」
だけでも別のところに飛ばそうとしたクロロの手を避けて、
自分が前に躍り出る。
クロロが莫迦と言うのと同時、目の前まで来ていたゼノの念が消えた。
後ろで控えていたシルバが、
呆気にとられる前に、念を飛ばしてきたのは流石だが、
それもまるで空気の如く、ふっと擬音を伴って。
あまりにも静か過ぎる其処に響いたゾルディック家専用無線機の音。
そして、佇む2人の胸には、
ぷっくらと可愛らしい、バッチが光っていた。