不貞寝は長くは続かない。
クロロが目覚めたのは、深夜2時を回ったころ。
そのくらいに目覚めれば欲しくなる水分。
自室を後にして、広間と呼べるのかは謎だが、
良く皆が集まる場所を通って、キッチンへと向かう。
月明かりに照らされて、
耳を塞いだを見つければ、
立ち止まらざるを得なくなってしまったのだけれど。
3分の1ほどはめられた巨大なパズルの前で、
耳を塞いだまま俯いたは、
近づいてきたクロロに気づいているのかいないのか、微動だにしない。
「?」
・・・・・・・。
「眠れないのか?」
こくり。
「・・・・・どうした?」
「耳・・・鳴りが・・・・」
初めてだ。
自分の問いに答えた彼女の声。
いつもいつも止まらないの。
助けて。
誰か止めて。
息苦しくて、また・・・・。
眠れない。眠れない。
気付けばクロロは、その腕の中に彼女を収めて、
ゆっくりとそのせなを擦っていた。
かたかたと揺れる肩。
夜だけあらわになるその感情波は、
彼女を包んで壊してしまうのではないかと思えるくらい。
「外へ行くか?」
こくり。
「抱くぞ?」
こくり。
早くあの窓の向こうへ連れて行って。
おかしくなる。
耳を押さえたままのを、
まるでガラス細工のように抱いて、
クロロはアジトを後にした。
廃墟と呼ばれるそこでも、扉を開けば風が身体を包んでくれる。
「この程度でマシになるんだな・・・」
こくり。
「ずっとなのか?」
こくり。
「いつ・・・いや・・・」
「梅雨」
「そう・・・・か」
昨日から、自分がYESorNOの問いばかりを口にしていると気付いた。
最初答えられなかった君のために。
そのほうが楽なのではないかとか、色んな事を考えて。
今にも壊れそうな君が、壊れないように。
「ごめんなさい」
「何がだ」
「決め付けて・・・・いたこと」
「何を?」
「イロイロ」
例えば貴方は自分にも他人にもあまり興味がないとか。
馬が合わないと思っていたこととか。
踏み込みたくなかったその世界観とか。
話してもなかったのに。
久しぶりに発した言葉は掠れ掠れて、
語彙なんてあったものでもなかった。
けれどクロロは何故か笑って、別にと。
それから3時間、朝日が昇るまでずっと、
とクロロは、少し冷たくなってきた風を受けて、
外に佇んでいた。
「おはよう。昨日は良く眠れた?」
ふるふる。
「緊張していたのか?」
「眠ることが出来ないの」
「嗚呼」
「」
昨日よりも幾分俊敏になった動き。
団長が呼ぶ名が、優しく聞こえたのは気のせいではないだろう。
パズルはもう直ぐ完成する。
とてとてと団長に近づくを、微笑んで見守ってしまっている自分達に、
お互い顔を見合わせて、苦笑しあった。
「食事だ」
ふるふる。
「流動食なら食べられるだろう。慣らしていけ」
渡されたゼリーとスプーンをもって、パズルのところへ戻る。
今はいい。
脇に其れを置いて、もう直ぐ完成するパズルにピースをはめ込んでいく。
「もう直ぐ完成じゃねえか」
こくり。
「たいしたもんだぜ」
ぱちり。
ぱちり。
後3つ。
最後のピースをはめ終えれば、すっと走った光。
一枚の絵画になった其れは、くるくると天体模型のように回りだした。
「クロロ・・・・」
「出来たのか」
こくり。
自分の名を呼んでくれた事がとても嬉しい。
小さな小さな声だけど。
それでも。
3D画像のように立体的になったそれから溢れた宝石の惑星が、
ころころと床に散らばって、きらきらと光る。
9つ全てを吐き出した其れは、動きを止め、
普通の絵画として、その場に鎮座していた。
「凄い大きさ・・・・」
サッカーボール大の宝石がずらり。
は絵画を見つめてぼんやりしている。
「その画はお前のものだ」
「いい・・・・の?」
「嗚呼。お前が完成させたものだからな」
まだ不器用な微笑み。
きょろきょろと誰かを捜すように視線を動かしたは、
お目当ての人物を見つけると、
ひょこひょこそいつに近づいて、くいっと服の裾を引っ張った。
「あれ、運んで?」
「おういいぜ!お前の部屋までか?」
こくり。
ひょいっと大きな絵画を持ち上げたウボォーギンを連れて、
昨日、コルトピとボノレノフが用意した部屋へと向かった。
「なんてゆうか・・・・・凄いね」
「シャルに同じく」
「気持ち悪い」
「シズク・・・・?」
大男が、160弱の女の子に従って歩いているのが。
ふいに訪れた転機は、
に突然の声と、感情を与え始めていた。