いつもより早く起きられたから、
1人で窓を越えて朝の散歩へ。
懐かれてしまったミケから、全力で逃げたら、
大広間へと侵入し、
準備中だったゴトーと二言三言話した後は、
少し早めの朝食へとかぶりつく。
メニューは、ココアにトースト、それからヨーグルト。
至ってシンプルなのは、朝っぱらからコースは勘弁してくれと、
が拝み倒す勢いでお願いしたから。
「今日も美味しかったです」
「いえいえ。イルミ様の分はどうしますか?」
「多分食べに来ると思うから、置いといて下さい」
「畏まりました」
ありがとうと笑って、大広間から一歩出た其の瞬間から、
の厄日は始まるのである。
がこん。
「え?」
きゃあなどという叫びをあげる前に、
四方八方から飛んでくる槍やらなんやらを避けたり、折ったり。
「あ〜あ。押しちゃったんだ」
「何これ」
最後の銛を真っ二つに折った所で、
また別の機会音が聞こえる。
「侵入者用の罠」
「まだまだ続くみたいなんだけど」
「ミルキが面白がって増やしてたから、どれくらいあるのか知らないんだよね」
「・・・・・・ありすぎない事を祈るよ」
槍とか銛とかの襲撃に始まった罠は、
王道を行くようなものばかりだった。
壁にはさまれ、天井に押さえつけられた後は、
転がる石の奇襲を受けて、
がこんっと抜けた床にまっさかさま。
どんどんと水の増えていく場所を抜ければ・・・
「ペットにした覚えはないんだけど」
「それ以前の問題だと思うのはあたしだけかな?」
「オレ以外にはだけだし」
「うん。そうゆう意味じゃないよ」
「そうなの?」
明らかに肉食であろう動物達がうようよ。
殺すわけにも行かず、とりあえず気絶させて、次へと向かう。
「ホント、何処まで続くんだろ・・・ねっ!」
マシンガンの連射をするりと抜ける。
むしろここまで辿り着いた侵入者はいないのだろう。
カナリアが、ゴン達に、ココまで来た人は初めてだと言っていた様な気がするから。
「疲れた・・・・」
「が先に朝食行くから」
「誰もこんなのだとは思わないよ」
「そう?」
「・・・・・・あたしは思わなかったの」
疲れてきたのは事実。
朝食は食べたが、今は何時だろうか。
「そういえば、イルミ朝ごはん食べてない」
「そうだね。でも平気だから」
「ゴメン。あたしの所為」
「平気だって」
ぽふぽふと頭を撫でてやれば、ホントにと上目遣い。
意識してやっていないところが困ったものだ。
結婚を申し出ているのは、冗談だと思われていること確定である。
「あ、ほら明かりが」
「早くココから出て、ご飯にしよう」
「時間もわからないのに?」
「お昼ごはんを盛大にすればいい」
「が作ってくれるんだよね?」
「何がいいの?」
「何でもいい」
「何でもいいが一番困る」
「じゃあ」
「こんなところで下ネタ吐かなくていいよ」
苦笑をもらして、一足先にヒカリへ向かう。
少しばかり油断していたのかもしれない。
何気ない冗談(冗談ではないのだが)を言う、イルミに安心して。
だから、少しだけ、反応が遅れてしまったのだ。
「!」
ぐいっと引っ張った腕。
余裕もなく、身体を変化させて、飛び込んできた何かを八つ裂きにする。
別にどうってことない、肉食のウサギだったわけだが。
ふと気付けば、を掴んだ腕も変化させていて、
つうっとしたたる血が、ぽたりぽたりと床へ。
「痛い?」
「大丈夫だよ。それよりありがと」
「いいよ」
咄嗟に体が動いてしまった。
あのままでも、彼女はかすり傷くらいで済んでいた筈なのに、
そんな傷さえつくのがイヤだったなんて。
どうやら屋敷を一周して、広間に戻ってきたらしく、
時計はもう直ぐ1時を刺そうとしていた。
「お腹空いたね」
「別・・」
「空いたよね?」
「空いた」
「じゃあ、早く作るから、待ってて」
「オムライス」
「判った」
ぽたぽたと血を滴らせたままキッチンに入ろうとするを、
引っ張って、ぽすりと胸に抱いたイルミ。
「間食」
そう言って、ぺろりと舐めたのは、
俺がつけた、
引っかき傷。