今日も今日とて、小さな湖を囲んでの鬼ごっこは繰り広げられている。
迷惑そうに波立つ湖を、
2人が気にかけることが出来ていたなら、
もう少しばかり静かな午後を楽しめたかもしれないけれど、
まあ、あと20年ほどは無理そうである。
「待てばいいのに★」
「絶対にイヤだ」
「強情だなあ◆」
「どっちが?」
「がvv」
「ヒソカがの間違いでしょ」
「この場合、どっちもだね★気が合うもの同士仲良くしようよ◆」
「誰と誰が気が合うって?」
「ボクと★」
「冗談」
かなり高速で移動しながらの会話は、
不運にも、その湖の傍を通ってしまったプレーヤーの気分を、
思いっきり損ねたらしい。
呆然と見つめつつ、戦意喪失した通りすがりの方々は、
溜息をついて何も見なかったと呟きながら、
ゆらりゆらりと去って行った。
「眠た・・」
「昨日も眠れなかったのかい?」
「ん〜眠れなかったわけじゃないよ」
「?」
「寝なかっただけで」
「同じじゃないか★」
「同じじゃないよ」
耳鳴りを恐れて、頭に反響する全ての音を追い出そうと、
ずっとずっと月に狂わされたくて過ごす夜と、
吸い込まれそうな月を眺めながら、ヌクモリを感じる夜とじゃ。
「ヒソカがいてくれるから眠れる。
でも、昨日は晴れてたし、星も月も凄く綺麗だったから」
ずっと、見ていたかった。
あなたの腕の中で。
「嬉しいねえ◆」
「・・・・・・・・(言うんじゃなかったかな)」
愛してる愛してる愛してる。
狂おしいほどに。
嗚呼。君が欲しい。
むくりと起き上がる欲望は、ずっとずっと内に秘めていたもの。
今に始まった事ではないと判っていれど、
自分のお陰だと穏やかに微笑む彼女を見ていれば、
自然と衝動に駆られる。
近付きたい。
抱きしめたい。
キスしたい。
交わりたい。
無理矢理押し倒す事はできるだろう。
今の自分と彼女とでは、力の差がありすぎる。
クロノスだって、念なのだから、対処のしようがあるといえばある。
けれど、嫌われたくない一心で。
自分が一番近くにいたい一心で。
「・・・・・ヒソカ?」
肩を震わせ、微笑をこぼす自分に、
変体を見るような目つきと声で、が反応を示した。
笑わずにはいられない。
嬉し過ぎて。
自分が故意に作り出した彼女の隙を、
見逃してやる気などさらさらない。
今までで一番早く、強く、地面を蹴ったのではなかろうか。
反対側にいるの元へ一瞬で跳躍したヒソカは、
そのまま掠め取るように、の唇を奪った。
「ご馳走様vv」
「・・・・・・・・・」
「もっとして欲しいのかい?」
「いらないっっ!!」
一拍置いて、真っ赤になった彼女を、襲いたい衝動にまた駆られる。
「なんで急に?」
「したくなったからに決まってるじゃないか★」
「・・・・・・今度からは言ってからして」
「!?」
その返答に驚いた。
顔の表情は変えずとも。
「不意打ちは嫌い」
「覚えておくよ◆ボクが初めてじゃなそうだね★」
「初めてだけど、減るものじゃないでしょ?」
欲望を良しとされた気がした。
誰かに奪われる危険性が増えた。
君はボクだけのものだ。
「、好きだよvv」
「あたしも嫌いじゃない・・・・・・・・・・と思う。多分」
「曖昧だねえ◆」
「優しさマイナス変体度とか鬼畜度とかその他諸々。だから多分」
「イルミよりは?」
「さあ?」
蝶番を外さないで。
鉄の扉を叩かないで。
姿も見ずに、声だけで、その城砦は崩れてしまう。
君に触れたい。
君を感じたい。
まるで、自分の軌跡を表す水面の様に、
ゆらぐ気持ち。