「先につぶして置いた方が楽そうだ」

「勘違いだよ」




外野がいくら何をのたもうかと思っても、

は本当にそう思っているのだから仕方ない。

ボールをバウンドさせて、念が込められる。

羨ましい。

絶対に増えない自分の念とは、制度も密度も違う。




「いつまで飄々としていられるかな?」

「そうゆうつもりは無いんだけど・・・・・」




ごうっと唸りを上げて迫ってくるボール。

受けるなどという選択肢は鼻ッからないわけで。

自分の前にクロノスを出し、飲み込ませる。

ボールがまたもや壁にめり込んだ痛々しい音共に、

審判の叫びが木霊した。




選手、アウトです!!」

「え?」

「なっなんでだよ!!」

「念も身体の一部って事だわさ」

「上手く陰で隠したつもりだったんだけどな・・・・」

「まだまだお粗末だわね」

「それはどうも」




確実に取らなければいけなかったのか。




「残念★」

「とりあえず外野に出たいから、その粘っこいオーラ締まってくれない?」




びにょーんっと自分の服を掴んで告げる瞳に、

怒りは本当に無いのだろうか。

だって彼女はこんなにも、負けず嫌い。



知っている通りのシナリオ。

直角に曲がった球も、アウトになったビスケも、

バックを宣言するゴンも。

違うことといえば、外野にゴレイヌが立っていることくらいだ。



もしここで、の怒りが爆発して、

クロノスを使っていたなら、

ゴンもキルアも怪我することなく終わっていたかもしれないけれど、

何とか耐えた彼女の腕には、赤くなった爪痕。




「ヒソカ、ボール頂戴」

「いいよ◆」

「取りはいつでもヒーローだから」

「何言ってんだ?」

「内緒」




一応、一般人よりは鍛えているつもりであるし、

あのウボォーだって認めてくれていたから、

少しくらい、スピードのあるボールが放たれる筈。

想いっきり振りかぶって投げられたボールは、そりゃもう、

あの華奢な身体からは想像できないくらいの威力で。




どぎゃっ

どごんっ




間合いに入れたクロノスに飲まれたボールは、

数秒先の未来へ一ッ飛び。

とろうと構えていた2番の顔面を直撃した。




「もう一回外野に出てくれればよかったのに」

「そうは行かないさ」




跳ねたボールも、殆ど威力は衰えていなかったけれど、

それでもレイザーの手にしっかり収まっていて。

少しばかり期待した自分が、莫迦みたいだと思った。




「・・・・・・・・・・・すげえ」

、怖いね」

「悔しいとか思ってんのかな」

「vv」




誰より負けず嫌いだから、

1番になる事を、最初は厭わなかった。

どんなことでもしてやると思った。

我儘言ってもいいけれど、子供の成長を見守るくらいは出来るように。

だってこの世は我慢の世界。




「ゴン」

「何!?」

「早く球取り戻して」

「りょっ了解」




いつも見ている顔なのに、

怒りが満ち満ちていて、到底逆らえないと思ったのは気の所為ではない。

合体作戦の後、戻ったボールを掲げれば、

今度はやっと、普段のに戻って、笑ってくれた。



跳ね上がるオーラに、羨望の念。

けれど、自分に出来る事はまだあるから、

スクリューの如くレイザーに向かっていく球の軌道を見やる。



打ち返されて、倒れたゴンの上をすり抜けて、

ほら、また要らない事をするでしょう。

莫迦。




「?」




指なんて持って行けと覚悟した。

とてつもなく楽しすぎて、彼らに加担したくなって。

自分の念が、どんどん増えていくのが判る。

レイザーの打ち返した球さえ、中指一本犠牲にするだけで跳ね返せた程。

場外に飛び出たレイザーを眼で追えば、

好い加減にしてよと、苦笑する、彼女がいたのだ。