「随分厳重な警備だなこりゃ」




ゾロが連れ去られた後を追い、1番グローブにやって来た

それなりに賞金首がそろっているのだから、

それなりの海軍は予想していたが、

ヒューマンショップを囲む、この尋常じゃない数はどうだろうか。




「(ま、誰かが暴れたんだろ)」




そう想いながら、一番問題を引き起こしそうな船長兼昔馴染みの事を思い出して、

深く溜息をついた。

まあ、それだけ集られ様が何しようが、自分には関係のない事。

あそこに行くと言ったのだから行かねばなるまい。

はひしめき合う様に列をなしている海軍を、

まるでセールに集るおばさま方と同じように通り抜けて行った。

現代人の人を避けるスキルを舐めてはいけない。




「すいません。ちょっと通して下さい」

「君!!ダメだ!!あの中で今海賊が暴れているんだからな!!」

「(やっぱりか・・・)」

「まったく。天竜人を殴りつけるとは!!」

「(ルフィ・・・あとでお仕置き・・・・・・)」




そんな話で白熱する海軍の網を、

端っこの方から抜けて行くのは、まあ、容易いことこの上なく。

こんなんで良いのか海軍と思った事も、自分の中だけの内緒にして置こう。

今から目の前に広がるであろう惨事。

また溜息を数十回と吐くのであろうことを予測して、

が、この島に来て、もう数えるのは止めてしまった溜息を、もう一度吐いた時だった。

扉が開いて、ぼすんっと、間抜けな音を立てて

自分の胸に頭をぶつけた、燃える炎のような赤髪が眼に入ったのは。




「あ、大丈夫か?ゴメンな?いきなり扉が開くと思わなかったから」

「誰だてめ・・」

〜〜〜〜〜〜!!!」




ドンっ!!

どさっ。





ぶつかった赤髪を押しのけて、腰に巻きついてきた良く知る腕。

それを払いのけて、はいつもの様にキスしそうな勢いで顔を近づけ、

ルフィに言い放った。




「ルフィ。お前後でお仕置きな」

「なんでだっ!!??」




果たして果たして、彼だからこそその行為を平然と受け止められる事や、

周りの銃を構えて海軍兵達の哀れな間は置いておいたとして。

哀れにも、非常識人なる昔馴染みの行動で、

直ぐ其処に尻もちをついている赤髪に手を差し伸べた。

赤髪を見て、色々と、物凄く色々と湧きあがってきたモノを、

笑顔で沈める。

コイツは変態じゃない。




「ホント、度々ゴメン。その髪、ユースタス・キャプテン・キッド・・・だっけ?」

「あっああ」




名を言い当てられる事など日常で、

勿論、札付きとして出回っているのだから、それくらいの事流せる。

流せる筈なのだ。本当は。

ただ、この男の声色や、頬笑み。

なんだこれは?

それより、コイツの言うお仕置きが気にな・・。




「うちのルフィのとばっちりだろ?ホント苦労かけてゴメンな」




ぽんぽんと叩かれているのは自分の背中か?

目の前の胸板は何だ?

自分が、とか呼ばれたこの男に抱き締められ

宥められているのか慰められているのかしている事に、

キッドが気付いたのは、数秒立ってからだった。




「てめえずりいぞ!!!」

「ルフィ!お前は謝る側だろう!!」

「え〜〜〜〜〜」

「え〜〜じゃない。そっちもゴメンな?」

「(お仕置きってなんなんだこいつ等。どうゆう関係だ・・・)別に」




造られていく甘い空気。

駄々を捏ねる麦わら。

赤面したまま突っ立っている赤髪。

ふいっと顔をそらした外科医。

苦笑したまま立っている、

今しがたこの3人の心を奪った謎の長身。




「なんなのこれは!!」

「ナミ、無事だったか」

「無事だったか。じゃないわよ!!さっさとルフィを戦いに送り込んでちょうだい!!」

「いや、俺にそんな力は・・」

「撃て〜〜〜〜〜〜!!!!」

「っ!!!」




どうやらその一瞬は、中将クラスの海兵が、

甘ったるい少女漫画思考から回復するには、十分な時間だったらしい。

その言葉を合図に飛んできた銃弾。

掠った頬。

覚醒した船長たち。




「あ、血」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

惹かれたんだそう。

フェロモン?

空気?雰囲気?

何だって良い。

とにかく、造形はさほど突飛でてない筈なのに、

その陶磁器のような肌

これが既に、彼らが脳内感染したからであるところの視点だとは、誰も気づかない

を掠った銃弾が、

其処から流れてくる紅が、

酷く憎たらしい。




「「「コロス・・・・・っ!!」」」




は、頬から滴る血を舐めとりながら、

誰もが一歩後ずさるようなその声に、なんだか懐かしさを感じた。