瞳に感じる眩しさに、はゆるゆると、

眠りの淵に置いてあった意識を浮上させようとした。



赤い髪ばかり追いかけていた、

自分の小さな足や、

輝かんばかりの黒い2対の瞳を、

羨ましげに眺めた過去。

さて、俺はこのよく知った世界で目を覚まして、

まず何から始めようか。

そうだな。

貯金もある事だし、会社を止めて、色々旅行してみようか。

向こうで旅をしてきたように・・・。



そんな俺の、現実的目標を打ち砕くかのように響いてきたのは、

あの、クソムカつくくらい聞きなれた、変体の声だった。




「起きたか!!」

「ホント、でけえなあ。お前があの鷹の目に連れられてきた時は、
一体どんな美丈夫かって、目を疑ったぜ!!!」

「ま、今回はお頭が浚って来た訳じゃねえしな」

「おいこら!オレはそんな悪じゃねえぞ!?」

「どの面さげて、その台詞口にしてんだ?この前科持ちが」

「ベック!」




嗚呼・・・。

まあ、確かに、元居た世界に戻りたいとは言ったけど、

そういう事ですか!!!????




「・・・っ!!」

「起き上がるなよ。わしが治療したと言っても、まだ傷は塞がっとらん。死ぬぞ」

「(アジール・・・・)」

「どんな無茶な戦い方をしとったんじゃ」




懐かしい顔達だ。

ベック、老けたな・・・。なんかゴメン。

ルウ、もう人間の域を超えている気がするんだが・・・。

ヤソップは一体、この10年の間に何があったんだ。

はじけたって事にしておこう。

赤い髪は何も変わらなくて、とても、安心した。




「シャン・・」

「お前、名前とか言えるんだろ?どっから来たんだ?」

「・・・・・・・・・・・え?」

「くまに飛ばされるってこたあ、それなりの実力者なんだろ?」

「海賊・・・ってなりでもないしな」

「政府関係者でもない」




にこにことした笑顔が目の前にあるものの、

周囲は警戒の空気で張り詰めている。

いくら鷹の目が連れて来たからといっても、不審者には変わりない。

そんな目。



お前、あんだけ人を弄んどいて忘れたのかよ!とか、

十発くらいぶん殴って、インペルダウンに連行しようと思ってた事とか、

色々、言いたい事はあったのに、

ただ、瞳からぽろぽろと、涙があふれる以外、

の口からは何の言葉も出てこなかった。




「あーあ。泣かした」

「おっおれの所為か!!??」

「お頭しか喋ってなかったしな」

の時といい、そろそろ扱いを覚えたらどうなんだ」

「もう成人してるだろこいつは!!」




確かに自分は、20歳も一気に年を取って、

昔の面影もなくて(シャッキーは分かってくれたけど・・・)、

分からないのは当たり前で。

そんな事を頭では考えているのに、

どうして涙は止まらない。

ぽろりぽろりと頬を伝う生温い滴が気持ち悪い。

そうか。ただ単純に、寂しかったんだ。

追い求め続けた赤い色。

ただ、それは一方通行の思いだったと知ってしまったのが、

とても、とても寂しかったんだ。




「とっとりあえず泣きやめ、な?別に返答は後でも良いからよ」

「それは困る」

「鷹の目」

「これから俺は海軍本部へ出向く。こいつも一緒に連れて行くからな」

「はあ?何言ってんだ」

「・・・・・・ミホ・・・クっ」




鋭い紅。

自分に剣術を叩き込んで、武器を与えてくれた父の様な存在。

ただ茫然としていた。

誰か俺を覚えていてくれるんじゃないかという淡い期待。

鋭く俺を貫いていた眼光が、少し、和らいで、

微笑みとまではいかないものの、俺の手作りの寒天を食べた時の様な顔になって、

その口が、ゆっくりと開いた。




「よく、帰ったな」




言葉にならず、身体の全てがきしんでいる事とか、

なんにも気にならなくなって、

俺は、ミホークの腕の中に駆け込んだんだ。