「鍛錬はしていたのか?」
「いや、ホント、あの嵐の日から一瞬だったんだって10年が」
「にしては適度に筋肉は付いている。もう一度鍛え・・」
「いや良い。俺が死ぬ」
シャンクスの船を出てから、既に幾日かが過ぎていた。
我儘を言って、進路を変えてもらったのは先程。
小さな小さなこの船に乗って、拉致られたのが昨日の事のように思い出せる。
「それより、ごめんな」
「何の話だ」
「いや、急にインペルダウンなんて言いだして・・・」
「かまわん。むしろそれが目的だったのだろう?」
「ミホークにはかなわないよ」
波に揺られるだけのこの数日。
ミホークと沢山の話をした。
あまり目的地を持って航海しないミホークだが、
そこは流石と言ったところか。
グランドラインの海など、ものともせずに進む小船に敬意すら示す勢いだ。
「会わせて、もらえるかな」
「なんともいえん」
「やれる事をやるよ。ダメと言われたらその後考える」
「変わったな。」
「そうか?俺としては全然。5歳児となんら変わらないよ」
「いや、良い顔になった」
自然と伸ばされて撫でられた頭に、気恥ずかしさを覚えながらも、
嫌という感情は全く湧いてこない。
むしろ心地いいと感じるくらいだ。
そうこうしている内にそびえたった扉。
エニエスロビーで見たそれに酷似した扉が、ゆうっくりと軋みながら開いて、
吸いこまれるように小船が中へと入って行く。
眼の前に広がる光景に、は息を呑んだ。
「これが・・・」
重苦しい空気。
咽返るような匂い。
アポも何もなしにやって来た鷹の目への対応で騒がしい監守達の喧騒に、
かき消されることのない、その独特な世界。
「、許可が下りた。行くぞ」
「うん。ありがとう。ミホーク」
そこからはあまり覚えてない。
手錠をかけられたり、叫びをバックミュージックに降りて行くエレベーターだったり、
唯一感触として残っていたのは、
悪夢を見た子供のように、ミホークのシャツを掴んでいたことだけ。
気合いを入れていなければ、倒れてしまいそうな空間。
ひときわ大きな檻が並ぶそこに到着して、ミホークに背を叩かれてようやっと、
は正気を取り戻したように思う。
「誰だ」
いきなり現れた鷹の目にも驚いたが、
どうやら自分に用事があるのは隣の男のようだ。
鷹の目よりも高い身長と、引き締まった身体からは、
只者ではないように思う。
ただ、全く記憶にないその姿に、威圧感も含めて、エースは問いを発した。
「エース」
「誰だ」
「エース。ゴメン。ごめんな」
髪が靡く。
自ら渡した記憶が、
懐かしい、フーシャ村の海の匂いと共に。
「・・・・?」
顔を上げた男の目からは、拭われる事のない涙が流れていて、
耳元に光るイヤリングについた、思い出の、貝殻が、でも、
は自分より年下な筈で、赤髪と共にいる筈なのに、何故。
「え、いや、おまえ、ルフィより、なんで・・・」
「色々あったんだ。会いたかった。まさか、こんな形で会うことになるとは思わなかったけど」
「、なんだよ、な?」
「そうだよ」
見惚れててしまいそうなくらい、綺麗な笑顔が其処にあった。
ノスタルジー