何処かの子供よろしい叫びが、

日曜日の昼下がり、高級ホテルの一室に木霊した。




「オレを置いていく気か!!!!」

「買い物に行くだけでしょ」

「なら一緒に仲睦まじく行こうと言ってるだろう!」

「変体と一緒に買い物したくないから」

!!」

「行って来ます」




どんっ。

ずるずる。

なんて、あからさまに扉に鼻をぶつけて崩れ落ちました的な音は、

一切聞こえない振りをして、エレベーターのボタンを押した。




ちゃん。今日は何用?」

「果物が欲しいんだけど」

「イチゴが安いよ」

「じゃ、其れ」




都会には珍しくない大型マーケット。

の目的は其処ではなく、その隣にある、小さな小さな何でも屋。

食べ物、飲み物、家具、文房具、拘束具、その他諸々。




「どうやってこんなに仕入れてるの?」

「企業秘密」

「そりゃそうか」




ココに来た数日後に見つけたこの店は、

のお気に入りとなっている。

勿論いつもはクロロがいないうちに行き来しているわけだが、

今日に限って何処にも行く様子はなく、

仕方なしに振り切ってきたわけだ。




「帰るの嫌って顔してる」

「待ってる人は嫌いじゃないし、待っててくれるから帰らないとと思う」

「でも今は別の理由が」

「御名答。ちょっと不治の病にかかっちゃって」

「伝染病?」

「いや、ん〜・・・・・害散病?」

「なんだそれ」




包まれた真っ赤なイチゴを受け取りながら苦笑い。

そんな時に感じた背中の圧迫感と、

肩から流れる黒髪は、至極懐かしい匂いがした。








の事だ。不埒な輩にナンパされたり、捕まったり、
挙句の果てに路地裏に連れ込まれて・・・・・・やっぱり行かせるんじゃなかった!!
待ってろ!今すぐオレが行ってやるから!!」




なんて、クロロが叫んでいる事など露知らず、

2人はオープンカフェでケーキをつついていた。




「久し振り」

「うん」

「元気そうで良かった」

「クロロに拉致られたって聞いたから、助けに来た」

「前科ある人に言われたくないな」

「聞こえない」

「聞こえてるでしょ」




彼の都合の悪い事が聞こえなくなる病は、

可愛らしいものだから、笑う事が出来るのだ。




「避難しない?」

「しません」

「嫌なんでしょ?」

「よろしくはないけど、待ち望んだ導が帰って来てくれたのは確かだから」




君のその笑みを生む事が出来るのは、

悔しいかな、きっとあの変体だけなのだろうなと、

イルミは確信してしまった。




「そ。あ、このブリュレも食べる?」

「いいの?」

好きでしょ。これ」

「うん」




ぱりんっと割った焦がしカラメル。

ふうわりと付いてくるクリームと一緒に、一口分すくったスプーンを、

の口元へ持っていって、

彼女も当たり前のように、口を開けた時だった。




がっしゃん。




「「・・・・・・・・・・・・」」

!!なんて危ない事を!!毒が入ってるかもしれないんだぞ!?」




アイアンとガラスのパテーションは粉々に砕け、

食べかけのオーランジュとブリュレも台無し。

他のお客にも迷惑な事のこの上なく、

流石のも、これ全てを飲み込ませる程のクロノスは作れない。




「避難する?」

「・・・・・・・・・・・クロロ」

「なんだ?どうした?助けに来てやったぞ?」




さあ、飛び込んで来いと、無防備に晒される鳩尾。




「一回死んで、螺子を拾い直してきてくれる?」




また、ガラスの割れる音が響く。

直せるだけのものを直したは、

店と客に謝罪を入れ、仕切りなおしてイルミとのデートを再開させた。



彼は、いつもと同じ。

今日も今日とて、




呼ばれず飛び出て、
ぶちのめされる。