「なんか、クマと遭遇しそうにもない感じ」
トランクを担いで、
樹海の中を行ったり来たりする自分が、
至極滑稽に思えてきた。
背中でクロノスが笑っているようにさえ感じる。
「携帯は通じる、から、って」
圏外を示した自分の携帯を、
恨めしそうに見つめたこと幾時間前。
は、さして重たくないにしろ、
だんだんと疲れが蓄積されているのかも知れない脚を、
動かし続けていた。
「こんな事なら、普通の御洋服に着替えて来るんだった」
形を大切にする彼が、
普通の場所で修行しないなんて、分かりそうなものなのに。
ところどころ破けてしまった白い着物を、
初めて身に付けた、
染まらない白を、
どうしても捨てることが出来なくて。
「ね、クロノス」
そんな着物には不釣り合いな、
自分の相方に尋ねても、
帰ってくるのは無機質な釦の瞳だけなのだけれど。
一瞬ふと、気を抜いた瞬間だった。
何処からか溢れるような気を感じる。
明らかにコレは、発。
「見つけた」
楽しくなって、つい、
自分が絶と陰をしっぱなしな事に気がつかないまま、
は足取り軽く、
その方向へと向かって行った。
「そうだ。ためればため込むほど、相手の気を引ける。
お前は念能力では最強でも、心も身体も中途半端だからな」
「はい」
「常人の垂れ流し状態に留めておけ」
「師匠は?」
「俺は食料を捜してくる」
「自分も・・」
「お前はその状態を維持しておけ」
「判りました」
「それと俺を師匠って呼ぶなって言ってるだろ?」
困ったように、はにかむ彼が、
自分よりも遙かに上の位置にいることを、
もう既に判っている。
きっとああゆう人が、上に立つべきなのだ。
常人の状態を保持しながら、
目を閉じ、座禅を組んでいた私は、
誰かが近づいてきたことすら気付かず、
いや、当たり前だったのかも知れない。
彼女なら。
だから、師匠が帰ってきて呆けた声を出すまで、
自分は本当に全く、彼女の存在に気付かなかったのだ。
「おいクラピカ、こいつは誰だ?」
「は・・・・・・え?」
「クラピカ、久し振り」
別れた頃と、同じ笑顔で笑った。
「久し振りだな、」
「元気そうで何より」
「わざわざそんな格好で、何故このようなところに?」
「クラピカの所にお泊まりしようと思って」
しばしの沈黙の後、
素っ頓狂な声を、2人してあげてしまったのは、
仕方のないことだと言っても良いだろう。