「シャワー付きの部屋・・・かあ」
鍛錬でかいた汗を流して、
いつの間にか用意されていたお茶に口を付けながら、
なんて穏やかな時間だろうと、
此処が何処なのか忘れてしまうくらいに。
「、いるか?」
「どうぞ。開いてます」
「時間は・・・」
「あ、今行きますね。すみません。お待たせして」
「いや、こちらからの無理な頼みだ。気にするな」
「それじゃあ、行きましょうか」
こんなにエプロン似合わないパパはいないだろうな。
けれども、それがまたそれで可愛らしくて。
「それじゃあ、材料を量るところから始めましょう」
日曜パパさんクッキングの始まり始まり。
「砂糖に種類があるのか」
「そりゃもう、沢山」
「なんだ?この粉は」
「そのまま食べるとお腹壊しますよ?」
「大抵の毒には耐性がついている」
「いや、毒とかそう言う意味合いではなくて」
お節料理の時を思い出しそうだ。
どうかこのまま、何も起こらずに過ぎますように。
「粉類とバターを混ぜるんですけど・・・」
「なんだ?」
「切るように・・・って、手刀は使わないで下さい」
慌ててゴムべらというものを渡す。
陰から、こっそり執事達が心配そうな目線を向けていることは、
気付かない振りをしておいた方が良さそうだ。
「綺麗に混ざってますね」
「そうか?」
「普通はタネを寝かすんですけど、
今日はそのまま型抜きしちゃいましょう」
「小さいな」
「シルバさんから見たら、どんな型抜きでも小さいと思いますよ?」
「これを押しつければいいのか?」
「力加減は御願いしますね。むしろ置くだけでも良いです」
この人が押しつけたら、まな板まで貫きそうだ。
結構イルミは、シルバさんに似ていると、
は近頃思う。
天然差加減は、絶対にシルバさん譲りだ。
大きな身体で、小さな小さなクッキーを、天板に並べて、
焼き上がるのを、オーブンの目の前で、
今か今かと待っている格好は、やっぱり猫。
「ちょっ!オーブンに素手で触らないで・・」
「問題ない」
「普通は、問題あるんですけどね・・・・」
「普通?」
「いえ、なんでもありません」
ざらざらとお皿に並べられていくクッキー達。
「食べても良いのか?」
「冷めてからの方が良いと思いますよ?お茶淹れます」
「嗚呼」
「珈琲とどっちが良いですか?」
「珈琲」
「分かりました。じゃあ客間に・・あ・・・・」
後ろから伸びてきた手。
これは、彼と出会う時の恒例行事というか、
何というか・・・。
そのまま口に持って行かれた出来たてのクッキー。
ほろほろと崩れる、あつあつのクッキー。
「美味いね。が作ったの?」
「シルバさんが作ったの」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
「シルバさんが作ったの」
「食うな」
「え?」
「イルミは紅茶?珈琲?」
「紅茶」
「分かった」
ぱさりと脱ぎ捨てられた、エプロン。
少し染まっていた様に見えなくもない、頬。
いつもどおり、の背中から腕を回して抱き付きながら、ぽそりと。
「青のチェックのエプロン、親父、似合ってたね」
「プレゼントしたの」