確か、この衣裳部屋に入ったのは、

太陽が真上に昇った頃だったと記憶している。

窓の外は見たくもない。

オレンジに溶けた空色。




姉様」

「?」

「これ、似合うと思うんです」

「あたしより、カルトちゃんの方が似合うよ」

「絶対姉様向きです!」




このキラキラした、

子供特有の瞳に、昼間から何度負けただろう。

はまた、1つ溜息をつきつつも、

お着替え部屋へと入っていくのだ。




「どうですか?」

「うん。ピッタリ」

「やっぱり姉様向き」




白に金と青の刺繍が鮮やかな、

お着物。

自分に白なんて。




、晩御飯・・可愛いね」

「・・・・・・・・ありが・・と」

「兄貴!見つかった?」

「うん」

「似合うじゃん白!もっと着りゃ良いのに!」

「そう・・かな?」




だんだんと俯き加減になっていく

自分とは相容れない色だと。

いつもいつも、紅を映えさせる色でしかなかったから、

コレが似合う時は、自分が死ぬ時だと思っていた。




姉様、顔・・・」

「可愛い」

「真っ赤じゃん!」




笑いが木霊する衣裳部屋。

はますます恥ずかしくなって、更に下を向いた。

恥ずかしいけれども、嬉しくもあって、

だから、気付かなかったのは、仕方のないことなのかも知れない。




「カルトちゃん、今帰りましたよ」




衣裳部屋を開けられて、全員が固まった。

流石、暗殺一家に嫁ぐだけの実力はあると言うこと。




「貴方は?」

「あ・・えと、お邪魔させて頂いてます。と・・」




甲高い声が耳をつんざく。

嗚呼、知ってる。

この瞳。

要らない者を見る瞳。

ダメだ。

逃げなきゃいけないのに、

身体が、全く言うことを聞いてくれない。




「貴方が!貴方が!!イルミもキルアもカルトちゃんも!!!!」




奪った。

私が、命懸けで手に入れたものを。

いとも容易く此奴は。




あんたさえ居なければ!!!




自分に出来ないことを出来る人。

羨み、恨んだ。

思考が停止する。

耳鳴りが始まる。

何も、ナニも、聞こえなくなる。

逃げちゃダメ。

逃げたいのに。




「あ・・あ・・・・」

「キキョウ、落ち着け」

「落ち着いてられますか!!
貴方も何、この汚らわしいものを中に入れてるんですの!?」

、行こう」

「待ちなさいイルミ!!」




掴んでくれた手を払った。

一人でなんとかしなきゃいけないと・・・。

なんとかって、ナニ。

彼女は、私が消えることを望んでいるから、だから・・・・。




!」

姉様!!」




走った。

似合わない真っ白な着物を着たまま走った。

消えれば良いんだ。

消えたくない。

消えたくない。

生きたい・・・・。