すこし風の強くなってきた甲板。

足に包帯をぐるぐる巻いて、シャンクスに寄り添うルリ。

なんだか今となっては、敵意もピエロの演技にしか見えない。

後ろから着いてきたベックマンと、私を交互に見て、

とてもきつい目で睨まれたのは気のせいではないと思う。




「なんだ。危ねぇから下にいろ」




暗に役に立たないのなら。

と、付け加えられたように聞こえる台詞。




「私この船降りる」

「は?」

「理由は色々あるけど」




敬語なんて使う必要ない。

自分で思ったから、はそうした。

ただ、それだけだ。




「本性現しやがったってか?」

「降りるのは決定。私が決めた」

「シャンクス、だって何も出来ないのが心苦しいのよ」

「そうか?そうは見えねぇけどな」




その通り。

は決して何も出来ないとは思っていない。

出てきたコックたちが、雑用は誰がするんだよ。

などとほざいている。

雑用と呼ばれるレベル以上のものを、はこなしていたのだから。

それを、コック達やザインはよく知っている。




「理由なんてどうでもいいけどね、いくつか質問があるの」

「答えねぇと言ったら?」

「聞き流すだけでいいよ」




それでは質問にならないではないか。

少し目を丸くして、シャンクスはじっとを見つめた。

シャンクスや、集まってきた下っ端、幹部たちのことなどどうでもいいかのように、

はゆっくり話し始める。




「ルフィの賞金額って今、いくら?」

「お前が何でルフィのことを知ってる」

「そう言うって事はまだ3000万?」

「・・・・・・・なんだ?」

「1億?3億?3億くらいなら皆知ってて当然かと思ったんだけど」

「・・・・・・・・」

「ああ・・・じゃあ、白髭さんトコに、エースを止めろって話しに言った?」




今度は全員が目を丸くする番だ。

その時はまだいなかった筈。




「行ったんだ。空が割れるの、私も見たかっ・・」

「お前何者だ」

「銃を下ろしてよ。ヤソップさん。異世界から来たって言ったでしょ?」

「能力者だろ!」

「何の根拠もなしに言うのやめてくれない?腹立つから」

「っ!」

「なんなら海水でもかけてみる?」




ルリに向かっていった言葉。

ピクリと肩が揺れるのが分かる。

それを隣にいるシャンクスが気づかない筈もなくて。

今度はとルリを交互に見つめた。




「ルリさんはどこまで知ってるの?」

「・・・・・・」

「知らないの?嫌いだった?」

「何の話しをしてんだ!!」

「向こうの世界の話。シャンクスには関係ない。ねえ、ルリさん?」

「何を・・・言ってるのか分からないわ?」

「じゃあ、異世界って沢山あるのかもね。ここと同じように、
エターナルポースやログポースを使って旅するような、私の知らない、もうひとつの異世界」

「ル・・・・リ?」




青くなっていく顔。

ざわめきの強くなる周囲。

自分の信じる道を。

そう、あの夏に決めたはず。




「ま、いいけど。どうでも」

・・・・」

「副船長、ありがとう。私なんかを大事にしてくれて」

「気づいてたのか。俺も気が抜けねぇな」

「それと、ザインさんを困らせないであげて下さいよ?」

「そっちも気づいてたんですね」

「異世界人をなめて貰っちゃ困ります」

、もう一度聞く。お前は何者だ」

「言ってるでしょ?異世界人だって。
貴方達が、厳密にはルフィがだけど、描かれた書物がある異世界からの旅人。
ココに来て、ルリさんが貴方に抱きつくまで、実は副船長より好みだったんだけどね」




さらりと本音を零せば、

隣でしかめっ面になり、当社比2倍位の皺が眉間に。

恋敵か。などと呟きつつ、の頭に手を置く。

それを見上げて、ニッコリと笑った。




「ルリさん、逆ハーレムの主人公は譲ります」

「・・・・?」

「ただ、引き際くらいは、格好良く決めたって罰は当たらないと思いませんか?」

「・・・・・何のこと?」

「苛められ役でも、幕引きくらいは自分でするって言ってるんです」

、お前まさか・・」

「ベン、もう私を見つけないで良いよ。ありがとう」

!!」




するりとその腕をすり抜けて、

呆然としているクルー達を通り抜け、

シャンクスとルリの隣を勢いよく翔けて行ったは、

荒れてきた海により、かなり揺れだした船の縁に足をかけた。




「ヤソップさん!!」

「止めろ!」




走って来る彼の傍に、ずっといたい。

久しぶりに生まれた思いが、心の中を交差する。

だけどせねばならない幕引き。

いや、自分が勝手にしようと決めた幕引き。




「ウソップはルフィの船に乗って、元気に狙撃手やってますよ!!」




それだけ叫ぶと、荒れる海へと飛び込んだ。

波にもまれて、の意識はすぐに飛んでしまったのだけれど。

一足間に合わなかったベックマンの手が、空を切った。




!!」

「ベン!何をする気です!!貴方まで溺れてしまう!!」

「このままほっとけるか!!」

「今はこの船を守ることが優先だと思いますけどね!!」

「っ!!」




自分は大所帯を抱える赤髪海賊団の副船長。

未だにぼけっとしている頭と乗組員を動かすのは自分の義務。

冷静な旧友と、自分の頭。

海の何処かで生きていることを願うしかないということ。




「全員配置につけ」




まだ、彼らの脳みそは復活しない。




「聞こえねぇか!!さっさと配置につけ!!」

『り・・了解!!』




全員が慌しく走り回る中、未だの飛んだ縁を見続けている2人の元へと歩く。

1人は怯え、頭の腕に腕を絡ませたまま。

もう1人は、自分のしてしまった愚かしさを呪うかのように、

隣の女を見つめている。




「話は後でゆっくり聞いてやる。自分の部屋へ戻れ」

「ベ・・・ン?」

「海水をかぶせられたいか?」

「っ・・!」

「お頭、今回のことは悪いが許せねぇ。ただ、その話しもこの嵐を乗り切ってからだ」




返事をせずにマントを翻し様子見へ。

赤髪海賊団の船の上から、故意に切り裂かれた哀れな帆が、

ゆらりゆらりと舞い落ちた。