浮気性だなって思いながら、
ワンピースの単行本に囲まれつつ、最遊記を読み返していた。
神様編が終わったところで一息入れようと階下へ降りた。
1人しては大きすぎる庭付きの一軒家。
「ふぅ」
「おい」
「・・・・・・・・・」
一度見つめて、視線をはずし、
元あった所にミネラルウォーターを仕舞うと、
漫画の読みすぎかなと口走り、そいつの隣を通り抜けようとした。
「俺様を無視するとはいい度胸だ」
「・・・・・自愛と淫猥の象徴が何でココに?」
「てめぇな」
掴まれた腕に残る感触は確かに本物。
漫画の読みすぎでうつろになった瞳で、なんとかそいつを見やる。
「俺様のことは知ってんだろ?」
「ああ・・・・知識としてなら」
「十分だ。ちょっと向こうで歪みが生じてな」
「で?」
「それが直るまであの4人の面倒を見ろ」
「無理」
「お前、天蓬の生まれ変わりが好きとか言ってたじゃねぇか」
「身が持たないでしょうよ。あんな美形に囲まれて生活してたら」
「上手くいきゃぁ恋仲になれるかもしれねぇぜ?」
「くつろぐなよ」
ソファにどかりと腰掛けて、誰の家か判っているのだろうか。
好きだ。確かに。
だけれども、あの4人と生活?
自分が変人になる可能性は200%を超えているといって良い。
「あの4人、莫迦女嫌いじゃない?」
「お前は莫迦女なのか?」
「だから、あの美形に囲まれれば誰でもでれでれになるって」
「お前は大丈夫だろ」
「別段金もちっでわけでもないし」
「それなら三蔵に言っとけ。ゴールドカードは使えるってな」
頼んだぞと捨て台詞を吐いて消えていった、
唯我独尊の神がいた場所をぼんやりと見つめていた。
今でも夢見心地で、扉に手をかけたまま。
悪態をつきながら現れた4人に、どうにでもなれと思ってしまったのだけれど。
「おいクソ婆!!」
「遅かったですね」
「なんだってんだよ」
「腹減ったぁ」
「・・・・・・どうでもいいから靴脱げ」
自己紹介を追え、お互いが聞いたあやふやな情報をつなぎ合わせて現状把握。
ちなみに自分が異世界人で、彼らの過去を知っていることは、
あの存在自体犯罪な神様から聞かされているらしい。
「さんに面倒を見てもらえということですか」
「そういうことになるんだろうね」
「俺、ちゃんになら全部あげ・・」
「黙れ。殺すぞ」
「、この菓子めちゃ美味え!!」
「ありがと」
色々とどうでもいい会話が飛び交っていたりするが。
というよりむしろ、この状況で正しい会話をしているのは、
八戒とだけである。
「ですが、金銭面の問題が・・・」
「三蔵のゴールドカード使えるって言ってたけど?」
「勝手に呼び捨てんじゃねぇ」
「北方天帝使三十一代目唐亜玄奘三蔵法師様のゴールドカードは使えるって」
「てめっ」
「なに?あ、あんまりタバコこっちに近づけないで。気分悪くなるから」
「だから控えるように言ったでしょう」
「ちっ!」
「つまりは家の提供だけってことだね?」
「そういうことでしょうねぇ」
「とりあえず適当に案内するから着いてきて」
大の男4人を連れれば、決して小さくない家が小さく見える。
両親が健在のときでも感じなかったこの狭っくるしさ。
1階のトイレとバス。
1人は畳に敷布団で寝てもらわねばならない事。
つい先程降りてきた階段を上がる。
なんだか不思議な感じだ。
「2人はココで寝て、もう1人はこっち。私の部屋はココ」
それぞれ部屋を指し示しながら言う。
「他に知っときたいことは?」
「ちゃんって独り身?」
「そうだね」
「広すぎねぇか?」
「色々あって両親が死んで、妹は従兄弟のおばちゃん家。だから独り身」
「・・・・わりぃ」
「別に?で、この世界で銃や刀類は違法だから、どっかに仕舞っといてね」
「めんどくせぇ」
「だったら出て行け」
ひくりと引きつった口元。
笑顔でそのせりふを吐くを、八戒と同類だと直感的に感じ取った3人。
「買いたい物ある?」
「今日はこの辺りの地理を把握します。地図なんかありますか?」
「パソコンで良いならその中に・・」
「ぱそこんってなんだ?美味いのか?」
「・・・・・・・地図帳ならこれ。近辺のは後で渡すから」
机に立てかけてあった地図帳をわたして、パソコンに向かう。
父がくれた、最高のプレゼント。
悲しいわけじゃない。
いっそ死んでくれと、何度も思ったわけだし。
自分の部屋に、4人も男が座れば狭くなるのは必然。
「下のリビングで読めば?」
「あまり広いところは落ち着かなくて。すみませんね」
「そ。ちょっと悟浄、勝手に人の本棚弄らないでよ」
「弄るって、ちゃんエロぉい」
「・・・・・・・・はぁ」
さめた視線と、呆れの溜息は、
八戒の笑顔で毒舌攻撃より利いたかもしれない。
もう一度パソコンに向かった矢先、後ろから来た強烈な光。
「なに」
「いい忘れたことがあってな」
「莫迦でしょ」
パソコンから眼を離さずに、応答のみを返す。
漫画の中でも大好きな4人だが、
それを面倒見るとなると、やはり手の掛かることこの上ない。
ミーハーなのを嫌うだろうし、
歪みがいつ直るかも判らないなら、嫌われたら最低の日常が待っているだろう。
「こいつはお前らの中で一番八戒のことを好いてるからな。相手してやれ」
「っ!!!」
「はい?」
「そんだけだ」
「ちょっ!!」
「嗚呼。妊娠だけはさせるなよ」
「待て!似非菩薩!!」
ポカンっとを見つめる8つの瞳。
硬派な印象を受けていたものだから尚のことだ。
「えっと・・・・・・・さん?」
「いいよ。気にしなくて」
「ええ?悟浄さん超気になるんだけど?」
「何が?」
「子猿は黙ってろ」
「猿言うな!」
「猿を猿っつって何が悪いんだよ!」
「場所を弁えて・・」
ごんっ
鈍い音と共に降ってきたのは、
広辞苑並、ハードカバーの長編小説。
「「って〜〜〜!!」」
「私ね、莫迦の喧騒と自分勝手な餓鬼が一番嫌いなの」
「「すいません・・・」」
「ついでに言うなら他力本願な怠け者も嫌い」
「なるほど。それを省くとボクというわけですか」
「八戒?気にしないでって言ったよね?」
「ボクはさんみたいな可愛い方なら大歓迎ですよ?」
「なっ///////」
一気に茹蛸のように真っ赤になった。
それもその筈。
彼女はあまり恋愛というものを経験したことがない。
理想が高すぎると友達からは言われているのだが・・・・。
「俺ものこと好きだぞ!」
「・・・・・どっちかっていうと今は悟空の方がいいかも」
「ちょっとちゃん、こんないい男目の前にそりゃないっしょ」
「だから困るの!!」
「え?」
「皆、美人だから困るんだって!」
漫画の中とか、妄想の中でしか知らない世界が目の前に拡がっていて。
だけど、いつか何処かへ行っちゃうのも判っていて。
どうしろというのだ。
弱くて、貪欲で、汚らしい自分に。
「でも、ボクのことが気に入りだと聞いてしまいましたからねぇ」
「ちょっ、八戒?」
「添い寝でもしますか?」
が、赤面で脱兎のごとく逃げたのは、
言うまでもない・・・・かもしれない。