ぽてぽてと、先程の勢いは何処へやら、
とてもゆったりと歩を進めるは、
とてもとてもマイナス思考になっておりました。
帰って誘導尋問を再開したところで、
彼らが思い出してくれる保障はない。
それと同時に思い出さない保証もないのだが、
術をかけてくれやがったのは曲がりなりにも神様で。
そもそも、自分を忘れていることを知っていて、
それでも良い。こちらに来たいと願ったのは自分だ。
「・・・・・・菩薩を恨むのは筋違い?」
今まで八つ当たりしていた人たちごめんなさいと密かに頭を下げて、
もう今は何処に向かっているのかすら判らない足を動かした。
ロケットに思い出を封じ込めて、
自分は覚えているのにと不幸な人のつもりだろうか。
「ありえねぇ」
両親が死んだときも、こんな風に卑屈にはならなかった。
いや、1人で色々と見下していただけだから、
気にならなかっただけかもしれない。
忘れられていても、自分と言う存在を、
ココに確立して見せると意気込んだ自分は?
八戒にもう一度、惚れさせて見せると誓った自分は?
今何処に。
「おい」
「わかんなくなってきた」
「おい!」
「煩い」
「なっ!!」
かけられた声を思いっきり無視して、
脳をフル回転させているは、
少しばかり早足になりながら、やはり廊下を進んでいた。
思い出すのは先程の会話。
「努力したって、莫迦にはなれないよね」
そう。もし、もしも単純莫迦ならどう考えるだろう。
悶々と悩むよりも先ず、ただ欲望をぶつけるだけ。
自分がして欲しいことは?
「やっぱり思い出して欲しい!」
「いい加減にしろ!!」
「もう何!って、言ってる傍から王子様発見!!」
「貴様何者だ」
「ちょっとお使いで来たんだけどね」
「答えになっとらん!!」
「だから使いだってば。聞いてた?人の話」
うっと詰まった赤毛の王子様。
側近’Sも妹も傍にいないようだが、
要れば確実に、同情の視線と爆笑を投げられたことだろう。
威厳も糞もない。
「あのね、飛竜一頭貸して欲しいの」
「貴様のようなやつに誰が貸すか」
「じゃあ、三蔵一行抹殺しに行くとき連れてって?」
「は?」
「あたし三蔵一行のトコに行きたいだけだから」
だけというが、彼女はここが、彼らからする敵サイドだと判っているのだろうか。
「・・・・・っだめだ」
「じゃあいい。最終手段に頼るから」
「最終手段?」
「ニイ博士ぇ!!」
「なんだい?」
「やっぱりつけてたんだ・・・・」
「心外だね。ボクも王子様に用があっただけだよ」
「ふ〜ん。そのケチな王子様が連れてってくれないらしいから・・」
「ボクに連れてけと?一回断ったのに?」
「貞操の危機だと思ったからね」
「じゃあ、本当に捧げて貰おうかな?」
「まっ待て!!」
どちらも人間なのだが、いかんせん。
片方は最強に胡散臭いから、見た目無害な彼女をほっとけなくて。
気づけば叫んでいた。
「もう、何?」
「連れてってやる」
「ホント?ありがと」
「もしかして、全部計算?」
「悪い?だって王子様がニイ博士嫌いなの知ってたし」
「侮れないなぁ」
へらりへらり。
特有の笑いが部屋に響く。
「お前こいつがどんな奴か知っているのか!?」
「知らないよそんなの」
「だったらこいつに関わるな!!」
「なんで?」
何故。
胡散臭いからともいえない。
ここであいつに気を使う必要は皆無なはずなのに。
どうしても、次の言葉が出てこない。
「烏ってなんで哭くんだと思う?」
「なんだと?」
「知らない?この歌」
「いや、知ってはいるが・・・」
「何で哭くんだと思う?」
「自らの子を思って泣くんじゃないのか?」
「それは王子様の願望だよ」
真剣な眼差しは、なんだか何も言えなくさせてしまう。
次に続く言葉は、想像できるのかもしれない。
けれど、彼女の口から紡がれたら、
また、違った響きを持っているのだろうけれども。
「あたしは、今は帰りたいから哭くの。手段なんてどうでも良いから、方法捜してね」
「じゃ、ボクは?」
「あんたは勝手に哭くの」
「(その通り)」
「だから、王子様が優し過ぎるの知ってて、
ニイ博士をだしに使ったけど、
もし王子様が変なプライドで連れて行ってくれなかったら、
少し・・・いや、大分危ないかもしれないけど、ニイ博士に頼むつもりだった」
誰でも良かった。
気づいてしまえば、即行動に移して、
そして、伝えたったから。
今は帰りたいから哭くけれど、帰ったら勝手に泣こう。
たとえ向こうが判らなくても、泣き喚いて、自分の気持ちだけ吐き出して。
「餓鬼くさい」
話題が飛び飛びで、既に2人はついていく事を放棄している。
けれどなんだか、すとんっと落ちてしまう言葉。
嗚呼。欲しい。
彼女が欲しい。
「魅力的な者程手に入りにくい・・・か」
「どうしたの?急に」
「いや、こっちの話。じゃあ王子様、お姫様のお見送りは頼んだよ?」
「貴様に頼まれなくともやる」
「最初は断ってたくせに。じゃあねぇ」
「っ!!」
「はいはい。抑えて抑えて」
飛び出しそうになる紅孩児を両手で制して、白い烏を見送った。
そして見事、足を手に入れたは、
紅孩児を脅して説き伏せて、すぐに三蔵一行の元へ向かうことにしたのだ。
餓鬼臭く駄々をこねた後は、
ゴメンねと謝って、また旅に出よう。
彼らにまた会うのも一興。
新しい自分の位置を気づくのも一興。