がいなくなって、
彼女の記憶を思い出して、3日という時間が流れた。
早く進みたいのに、妖怪達は後を絶たず、むしろ増えたようにも感じる。
「くそ!!」
「湧いてんじゃねぇよ!!」
「ホント、一片通りな方達です・・・ねっ!!」
「どっから出てくんだか」
如意棒を、銀銃を、気孔を、錫月杖を、
振り回しながら、数だけは多くなっていく雑魚供を倒してゆく。
自らのストレスを発散しているように見えなくもないが・・・・。
でも例えばそれは、
あまりにも淀みなく押しかけてくるものだから、
少しばかり疲れがたまっていたりとか、体力が削られていたりとか。
自分ではあまり気づかぬところでガタが来ているものなのだ。
彼女のことを考えていればなおのこと。
「八戒!あぶねぇ!!!」
「えっ・・?」
後ろを振り向いたときには、目の前にきらめく刃。
反対側に気孔破をぶっぱなした直後だったから、
防護壁をつくることもかなわず、
無理な体制で打った為に、体制を立て直す時間もない。
珍しくも重症かと思われたそのとき・・・。
どごっ
上から降ってきた者によって、見事な踵落しを食らったそれは、
無残にも、地面に食い込んでいた。
「大丈夫?」
「!!!」
「王子様!ありがと!!」
「三蔵一行、今日は見逃してや・・」
「格好つけなくて良いから、さっさと帰りなさい。子を思って烏が泣いてるから!!」
「うっうるさい!!」
「ニイ博士にもよろしく言っといて!!」
「言わん!!!」
漫才よろしく会話を済ませたは、
未だ数が残っている妖怪に向かってゆく。
止めるために発しようとした言葉は、雑魚妖怪の攻撃によって塞がれるのだけれど。
ばしばしと技を決めていくの眼は、
なんだか怖いくらい生き生きしていたとか・・・・。
「改めて、ただいま」
何から話そうか戸惑う4人。
なんて言おう。
どう謝ろう。
忘れてしまっていてごめんなさいと?
そんなもの、無意味に等しい。
「あのね、烏はなんで哭くんだと思う?」
「はい?」
「いいから答えて」
唐突な質問に、唖然とする4人だが、
真剣な彼女の眼差しを受ければ、意図があって聞いているのだろうとわかる。
意図なんてわからなくても、それだけで十分だ。
「子供をあやす為・・・じゃなかったですか?」
「オレは子供を黙らすためって聞いたぜ?」
「腹減ったから!!!」
「自分のためだろ」
四者四様の言葉に噴出す。
やっぱり自分の願望だと、こっそりと呟いて。
「じゃあね、あたし今から勝手に泣くから」
「え??」
すうっと息を吸うと、ぽろりとこぼれた涙をきっかけに、
小鳥がびっくりして飛び去るくらいの大音量で、
嘆き始めた。
「あんな露出狂神様の術になんか、なんではまっちゃうのよ!!
忘れてても、自分で居場所を確立できたらいいやって思ったけど無理!!
寂しいんだもん!向こうでの思い出とか、それに似た状況とか、
あたしは前にもあったねって笑いたいのに、皆は何にも覚えてないし!!
八戒だってキスしたくせに!!こっちきたらさん付け呼びで!!
なんで・・・・・・なんで思い出さないのよ莫迦!!!!」
一息で言ってのけて、
すとんと膝から崩れ落ちたは、
思いっきり声をあげて泣いている。
4人の記憶が戻ったことを知らないのだから仕方ないといえば仕方ない。
けれども、口を挟む隙を与えず、
そりゃあ、勝手に泣くと宣言したとはいえ・・・・だ。
そんな中、おろおろする3人を尻目に、
少しばかり黒い笑みを浮かべた八戒が、に視線を合わせた。
「、すみません。泣き止んで下さい」
「っぅぇ・・・なっんでよ!怒ればいいのにっ!!」
「どうしてですか?」
「勝手に泣き喚いて、訳わかんないことばっか叫んだっ!!」
より一層声を高くして泣く。
その身体をぎゅっと抱きしめた八戒は、
耳元でそっと呟いた。
「泣き止まないと、いつかの夜みたいに太腿撫でますよ?」
ずさっと引き下がったのはの方だ。
「おまっ!そんな事してたのかよ!!」
「の谷間を堪能していた貴方に言われたくありません」
「あれは不可抗力だろうが!!」
「万年発情河童!てめぇ!いつそんなことしやがった!!」
「そういう三蔵も抱きつかれて赤面してましたけどね?」
「うるせぇっ!!!」
「三蔵!!オレなんもしてねぇよ!!」
「疲れ果てたの腰に手、回してたじゃないですか」
「死ね!!すぐ死ね!!」
「うぉっ!!」
「当たる当たる!!」
ぽかんっと眺めることしか出来なくて、
どうして?なんで?
意味がわからぬまましりもちをついていると、
そっと八戒が喧騒を外れてやってきた。
「忘れてしまっていて、すみません」
「なん・・・・」
「これですよ」
「これ!!なんで!!」
「が落として行ったんです。ジープの中に」
「あ・・・・」
首にかけられた4つ石のロケット。
そっと付け直された時に触れた、彼のヌクモリが、
今度は安心の波を引き寄せてきて。
止まったはずの涙が、また流れ出す。
「ああ〜〜〜!!八戒が泣かしてる!!」
「なになに?決別?」
「心外ですね。啼かすなら何度でもしたいですけど」
「エロ河童かお前は」
「一緒にしないでくださいよ」
「おいこら」
嬉しくて、嬉しすぎて、
涙を流しながら笑うという器用な芸当をやってのけるに、
微笑を返す4人。
また始まるね。始められるね。
やっと。
「、おかえりなさい」
「ただいま!!」
そう言って、翡翠のピアスが揺れる少年に抱きついた。
嫉妬の念にかられて、2人の間に割って入ろうとした3人が、
八戒の笑顔に冷や汗を流して後ずさりしたのはいうまでもないだろう。