非日常がを襲って1週間が経った日の昼下がり。
明日から後期が始まるということもあり、は午前中から用意で大忙しだ。
といっても、大半が語学の予習なのだけれど。
「なあなあ、遊ぼぉぜ。暇」
「勉強してるから後にして」
「ちぇ〜」
数分後。
「ちゃん暇?悟浄さんと散歩行かない?」
「勉強してるから後にして」
「残念」
数分後。
「3時のお茶でもどうですか?」
「勉強してるから後にして」
「そうですか」
数分後。
「おい、煙草が切れた買って来い」
「・・・・・・・」
「聞いてんのか」
ぷちりと、何かが切れる音と共に、
三蔵の背中を、階段から落ちる勢いで押しに押してリビングに着いたは、
そこで思い思いにくつろぐ3人+今しがた押し込んだ三蔵をにらみつけた。
「てめっ何しやがる!」
「何しやがる?そっくりそのまま返すわ」
「何だと!」
「勉強してるから後にしてって、一体何人に言えば気が済むわけ?」
「お前らも言われてたのかよ」
「なぁんだ。考えることは皆一緒って・・・・・・?」
「明日から大学だってことも話したよね?」
「そういえば今朝言っていましたね」
「どうでもいいだろ」
「どうでもいい?」
「っなっなんだ」
「今週は2週目仏滅でたまたまバイトも稽古事もなかったけど、私殆ど家にいないの」
「え〜〜なんでだよ!!」
「バイトだからってさっき言ったでしょ?その耳は飾り?」
「スイマセン」
鬼気迫る勢いとはこのことだろう。
八戒ですら、顔を上げられなくなっている。
そんな人に3人が太刀打ちできようか。
否。
天と地がひっくり返ったとしてもありえない。
「だから1人でも過ごせるように近辺は案内したし、
これ以上知りたいことはないかって念も押したよね?・・・・・ね?」
「「「「ハイ」」」」
「判ったらいいけど」
そう言ってマイマグカップを手に取り、
冷蔵庫で冷え切った珈琲をなみなみと注ぐ。
「もう一回だけ聞く。聞きたいことないよね?」
「えっと・・・・具体的にどのくらいの時間帯外出するんですか?」
「平日は大体朝の7時から夜の8時。
休日はバイトがシフト制だからなんともいえないけど、長い時は朝の8時から夜の10時かな」
「かなりですね」
「そう?勤労学生こんなもんでしょ」
そういえばと思い至ったのは、彼女が独り身だということ。
学費、生活費、全て自分で稼いでいるのだろうか。
母方の弟夫婦が支援してくれていると聞いたことがある。
「一寝入りするね」
「おっおう」
逆らっては、いけないと思った。
その八戒を上回る笑顔然り、
言葉の節々に浮かぶ、彼女のあやふやな思い然り。
それから4時間経過して、
起きてこないの代わりに夕飯を作り終えた八戒。
そろそろ起こしに行かねばと思っていた矢先、
がちゃりとリビングの扉を開ける音が響いた。
「おはようございます。ご飯、出来てますよ」
「う・・・ん」
まだ眠気が残っているのか空ろな瞳。
ふうらりふうらりとソファに向かって、
どこかの親父よろしく、寝転んでテレビを見ていた悟浄の上に、
ぼすんっ
「は?」
「え?」
「まじ?」
「おい」
「ごじょの上あったかぁ」
昼間の勢いは何処へやら。
ほにゃりらとした空気がそこいらに立ち込めている。
「えっと、ちゃん?」
「ふえ?」
「お、そのアングルいい感じ」
「悟浄?そこから何が見えるって言うんです?」
「いえ・・・何にも」
「?ほら、起きないと悟空に全部食べられちゃいますよ」
「要らない。ご飯要らない」
「へえ。だったらちゃんは何が欲しいわけ?」
「ヌクモリ」
ぴしりとかたまったのは、悟浄だけじゃない。
向かいで新聞を広げていた三蔵も、
に手を伸ばそうとした八戒も、
テーブルについてこちらを伺っていた悟空も。
ぎゅうっと抱きつく腕に力を入れて、またぽそりとがこぼした。
「せっかく美形が揃ってるのに・・・・何もしないなんてヤダ」
その後に聞こえた寝息は規則正しく。
無音の時が数秒流れる。
八戒の笑顔の圧力に、悟浄は絶えかねたらしく、
ぺちぺちとの頬を叩き、起こそうと試みた。
「ちゃん、起きてくれないと俺が死ぬ」
「なんですか?」
「すいません。起きて下さい」
「んっ・・・・・へ?」
「お、起きたか?」
「っ!ごめっ・・っきゃ!」
「うおっ!」
忘れちゃいけない。
ここはもちろんソファの上。
転がり落ちれば床にドスンは目に見えていて。
頭だけでもガラスの机から守ったのだから、偉いと言えよう。
「あっありがと」
「で、ちゃんは誰のヌクモリがいいわけ?」
「そ・・・・れは////////」
覚えている。
悟浄に何をして、何を口走ったのか。
夢にまで見た4人の、誰でも良いから抱きしめて欲しかったなんて、
言える訳がないので、もちろん黙。
「ちゃ〜ん」
「さっさと席につけ。万年発情河童」
「三蔵様も羨ましいならそう言やいいのに」
「死ね。今死ね。直ぐ死ね」
「へいへい」
「てめぇも莫迦やってないで早く座りやがれ」
「やっぱり莫迦って思う?」
「あ゛ぁ?」
「あんな女は、莫迦って思う?」
ヌクモリが欲しくて、人肌が恋しくて、
誰も彼もに抱きつきたくなるような、そんな女は。
「三蔵、それくらいにしないと、ボク手元が狂っちゃいますよ」
フルーツを切り分けようと手に持っている包丁をちらつかせて
そう言う言葉を発する八戒は、至極恐ろしい。
「っち!!」
「さ、、ご飯にしましょう」
「あ・・・うん」
「それと、今度から抱きつくのは僕だけにしてくださいね?」
「え?」
「ずりぃぞ八戒!!俺も!!」
「餓鬼猿ちゃんは黙っとけって」
「うっせえ!!エロエロ河童」
「なんだとこの」
「黙れ。殺すぞ」
「三蔵には間違っても抱きつかないでください」
「・・う・・・あ・・・・はい」
いいのだろうか。
こんなので。
一生懸命抑えてきた衝動を開放しても。
不安げな顔を向ければ、三蔵を除く皆が返してくれた笑顔。
なんだ。いいんだ。
「あたし、一番危ない人に抱きついてた?」
「自覚あるなら全然OKですよ」
「ちゃん酷い」
「これからは悟空にしようっと」
「「え?」」