の抱きつき癖も解禁をもらい、
バイト、学校と4人ものいない昼に慣れてきたこの頃。
今日も今日とてはバイトで、
時計の針は、もうすぐ11時をまわろうとしていた。
「あっ!」
自転車のブレーキ音を聞きつけ、
今しがた風呂から上がったばかりの悟空が玄関へ駆け寄る。
「お帰り!!」
「悟空〜ただいまぁ〜〜」
「へへ」
「お風呂から上がったトコ?」
「そ」
「石鹸と太陽のにおいがする」
夜遅いバイト帰りのの日課。
悟空に抱きついて癒されること。
これはこれでもう仕方ないと、諦めてしまった3人がいたとかいないとか。
「今日は随分遅かったですね」
「ん〜。ちょっと長引いちゃってさ。残って明日の準備」
これしなきゃ、明日の人が大変だからねぇ。
と、ふらふらリビングへやってくる。
「お、お帰りちゃん」
「あれ?悟浄珍しいね」
「いつも夜出歩いてるわけじゃねぇって」
「そっか・・・ん〜・・・・・」
「、抱きつくなら僕にして下さいと言いませんでしたか?」
「だって久しぶりに悟浄見るし」
「俺はいつでも大歓迎だぜ?」
「ダメです」
超夜型の悟浄と、どちらかというと朝方の。
あまり顔を合わせないのも無理はない。
八戒の入れてくれた冷たいお茶を飲み干して、
抱きつこうかと思案していただったが、
八戒の笑顔に仕方なく隣に腰を沈めるだけにとどまった。
抱きつき癖が発覚してからというもの、
八戒に大きな顔を出来なくなったは、めっぽう弱くなったと言っていい。
まあ、最初に比べてなので、口答えくらいはするが。
「あ、三蔵様、ただいま」
「ああ」
「なんか面白い記事あった?今日読んでいけなくってさ」
「貴様が気にしていた本だろう」
広告欄を指して言う三蔵。
いつだったか、発売を楽しみにしているのだと話したことがあった。
「嘘!!」
「嘘をついて何の徳がある」
「ホントだ!!ありがと三蔵様!!」
「っ!!離れろ莫迦娘!!」
新聞での話題が盛り上がるのはこの2人くらいだ。
三蔵に至っては、この世界に対するすばらしい順応力だといえよう。
ちなみに、三蔵に抱きついたは、
ぺりっと至極当たり前というように八戒に剥がされていたとか・・・・。
「そういやさ、ってなんのバイトやってんの?」
「え?言ってなかったっけ?」
「そういえば、聞いてませんね」
「何々?ふりふりのウェイトレスとか?」
「当たらずとも遠からず。ホテルのウェイトレス」
「「「「ホテルでウェイトレス?」」」」
ホテルという単語を知らなかったかと思いきや、
どうやら聞いたことがあるらしい。
悟空は宿屋の高級バージョンとでも考えたのだろうが。
「と言っても、大体が披露宴の配膳なんだけどね」
「ひろうえん?はいぜん?」
「結婚式の後で、来てくれて有難うって設ける席。配膳は食事を出す役の人」
「料理出すのか!!!」
「悟空には出来そうもありませんね」
「で、制服可愛いわけ?」
「可愛いって言うよりすっきりかな」
「まあ、結婚式までされるホテルとなると、俗世っぽくないですし」
「今度、見に来る?」
「河童が喜ぶだけだ。止めておけ」
「なんだよ、お前の愛娘じゃあるまいし」
「なんだと」
「はいはいストップ。残念ながらそこでの制服はズボンだけどね」
「なあなあ、飯美味いの!?」
「そうだね。高級っちゃ高級だと思うよ」
「行って見ますか?」
「掃除とか色々してもらっちゃってるし。三蔵も美味しい珈琲飲めると思うよ」
「ふんっ。保障するんだろうな」
「もちろん」
バイキングだから食べ放題だしね。と笑ったに、
悟空が喜んだのは言うまでもなく、
3人が、密かにの制服姿を楽しみにしているのも、言うまでもない。
その日からきっちり7日経った日の、朝。
から書いてもらった地図でたどり着いたのは、
そびえ建つビルの中のひとつ。
「凄いですね」
「空気が悪い」
「仕方ねぇんじゃね?こんだけ車が走ってりゃあな」
「腹減ったぁ〜」
「じゃ、行きますか」
支配人には既に話をつけてあるという。
沢山来ているところだから、優遇してくれてるらしい。
25階のボタンを押して、エレベーターを上る。
ちなみに、エレベーターの操作がわかったのは八戒一人だったとか・・・・。
ちんっと言う音と共に開かれた扉。
目の前に見えたのは、高層から見上げる青々とした景色と、
高級感溢れるバイキング形式の朝食風景。
「すっげ・・って!!」
「黙れ猿」
「三蔵もはりせんなんて仕舞って下さいよ」
「っち」
「ちゃんいねぇかな」
「あの、さんの・・・」
「かしこまりました。伺っております。こちらへどうぞ」
いらっしゃいませ。おはよう御座います。いかがですか。
という言葉が飛び交う。
高級そうな感じとは対照的に、他人行儀なところはない。
美形と言うこともあってか、すぐにウェイトレスがやってきて、席を引く。
制服は、長袖カッターにストレートズボン。
黒のエプロンとなれば、まるでソムリエ。
「確かに制服はすっきりですね」
「ちぇっもっとこう・・」
「黙れ」
「なあなあ、取りに行ってもいいの?」
「いいですよ」
「よっしゃ食うぞ!!」
飛び出していった悟空の後を追って、3人も好きなものを取りに行く。
探そうと思っていたは、すぐに見つかるのだけれど。
じっと色んなものも眺めながら、未だ手に何も持っていない老夫婦。
こういうところは始めてなのだろうか、すこし緊張した風に。
「どうかなさいましたか?」
「あっ・・・いえ・・・・ね」
「ここでのご朝食は初めてでいらっしゃいますか?」
「こういうトコロで食事をするのが初めてで・・・」
「普通のレストランと思ってくださって結構ですよ」
「え・・・あそう・・・ね」
「もしよろしければ、メニューの説明をさせて頂いても?」
「あ、お願いします」
ふっと、笑った気がした。
気難しい顔で、困ったような、そんな表情をしていた2人が。
の所為なのだろう。
にこりと笑って、色んなところを、判りやすく説明しながら回る。
2人のお皿には、次々に料理が並べられ、
いっぱいになったお皿はが持っている。
気配りも忘れない。
「お飲み物は何かお持ちいたしますか?」
「あの、緑茶なんて・・・ありませんよね」
「ご用意いたします。少々お時間頂いてもかまいませんか?」
「ああ。お願いします」
もう少し上の役職についているであろう人に声をかけて、
緑茶を頼んだは、その脚でまた別の・・。
「お客様」
「あっ!!・・・っとわり」
「まだお取りになるのでしたら、3皿ともお席までお持ち致します」
「お・・・願いしま・・・す?」
「かしこまりました」
すってんと転びそうになったのを抑えた3人は、
其々もとっていた料理を、一度席に置こうと戻った。
「お連れ様のお皿、置かせて頂いてもよろしいですか?」
「おう、いいぜ」
「失礼いたします」
例えばそれが知り合いでも、敬称、敬語を忘れない。
敬って、けれど他人行儀にならずに。
ふうわりと笑う。知り合いのように。
「すいません」
「はい」
「落としちゃって・・・」
「すぐに変わりのものお持ちいたします。お洋服は・・・」
「あ・・・大丈夫です」
持っていたトーションでクロスを隠し、濡れナプキンを渡す。
新しいものを入れた皿を持って笑えば、
気にしないでとそういっているようで、
向こうも笑い返してくれていた。
「らしいな」
「そうですね」
「すげぇな」
いつの間に戻ってきたのか、既に3皿片付いている悟空。
去り際にそれも下げて、
優雅な身のこなしは無駄がない。
戻って来た時には、手に珈琲と冷水。
一度サイドに冷水を置くと、またこちらにやってくる。
「珈琲のお変わりいかがですか?」
「頼む」
「かしこまりました」
今立とうとしていたところなんだ。
そういうところに現れては、すぐに問題を解決してくれるから、
とてもスムーズに朝食を終えた気がした。