雨が降る。
雨は降る。
夜通し降る。
眠れない。
夏があけたとはいえ、まだ少し蒸し暑い日。
風を伴う雨となっては窓も開けられない。
三蔵と八戒はやはりと言うか機嫌がイマイチ。
三蔵は悟浄にかわって貰った座敷で、八戒はリビングで、
丑三つ時を指す時計の針も気にせずに、外を見やっていた。
そんな八戒の耳に聞こえてきた、
扉の音と、ここ数週間で聞き慣れてしまった彼女の声。
「あれ、まだ起きてたの?」
「ええ。眠れなくて・・・って!!!!」
「なに?」
「何じゃないですよ!!」
今までの重たい空気は何処へやら。
それを一掃するくらい、の格好は八戒にとって強烈だったのだろうか。
少し大きめのTシャツに、1部丈のスパッツ。
まあつまりは、Tシャツだけを羽織っているように見えたのだが。
「なんという格好を」
「ちゃんとスパッツ履いてるよ?」
「見せなくていいですから」
げんなり立ち上がってコップにお茶を注ぎに出すと、
ありがとと笑顔が返ってくる。
それに癒されている自分が、至極不思議な存在に思えた。
確かに、子沢山のカカア天下を想えるようにはなったのかもしれない。
けれど消えない記憶は、今も自分を蝕んでいる筈。
「も、眠れなかったんですか?」
「うん。ちょっと暑くて」
「その格好は、考え直した方がいいと思いますよ?」
「どうして?」
「いやあ、ボク等一応男ですから」
「でも、八戒は恰幅のいい子沢山の女の人でしょ?
悟浄はもっとナイスバディなお姉さんだろうし、三蔵様は女が嫌い。
悟空は・・・・論外なのかな?」
自分達の好みの話をしているんだろう。
冷え切ったお茶。
ころんと転がる氷。
何故だろう。少し、寂しい感じがするのわ。
自分のことを知られていた気味悪さよりも、
自分のことを男としてみていないその瞳に嫉妬した。
「」
「ん?・・・え?」
「一緒に寝ましょうか」
いつもは向こうから抱きついてくるから、
たまにはとこちらから腕を腰に回して2階へ誘う。
飲みかけのお茶もそのままに。
座敷の三蔵も無視をして。
少し戸惑う素振りを見せるものの着いてくるに、
なんだか、過去の夢を見ないという変な自信があったのも事実。
「狭いでしょ」
「くっついて寝れば大丈夫です」
「どうかしたの?」
「雨ですから」
「1人になりたいんじゃなくて?」
「いえ・・・・今日は少し」
君と一緒にいたかったなんて、決して口にはしないけれど。
シングルのベッドに無理やり2人。
狭いと言うより、アタタカイ。
「なんかさ、八戒は安心する」
「はい?」
「悟空は癒される。悟浄はドキドキする。八戒は安心する。三蔵様は・・・デンジャラス?」
「悟浄は・・・・なんです?」
「ドキドキする?なんだか色んなとこ弄られそうで」
「・・・・・・じゃあ、ボクも弄りましょうかね」
「へ?ひやっ!!」
むき出しになっている太ももに指を這わせば、
聞こえてきた叫びにも似た声。
そそられる。いけないと思いつつも、止まらない。
紅潮した頬が、さらに八戒の手の動きを早めようとした。
に遮られてそれは出来なくなるのだけれど。
「?」
「ホントに。恥ずかしいから/////」
「誘っているようにしか聞こえませんよ?」
「八戒!!」
「すいません。悪戯が過ぎましたね」
困ったように笑えば、しょうがないなと無言で笑う。
なんだかずっと一緒にいたみたいな。
意思の疎通の仕方に、八戒はもう一度苦笑した。
「それで、がボクのことを好きと言うのは・・」
「掘り返さないでってば!!」
「気になるでしょう?」
貴女だから。
「なんかきっと、アイドルを好きになる感じに似てるんだと思う」
「え?」
「絶対触れられない世界の人たちに対する憧れ・・・・かな?」
「そう・・・・・ですか」
「でも、ずっと誰かに抱っこされて眠りたいなって思ってた」
そう言っておずおずと回される腕に感じる愛しさは本物だ。
彼女になら、どれだけべたべたされてもいいと思えてしまう。
重症だろう。
アイドルといわれて覚えたイラつきも、
すっと消えてなくなるがごとく、もう自分の気づかない淵へ行っていて。
「やっぱり安心する」
「それは良かったです」
傍にいるだけで、存在価値を認められた気がする。
ずっと続けば良いのに。
叶わぬ願いと知っていても、人は、自分は、願ってしまう。
無意味な弱者のお願い事。
そして、次の日の朝。
「なあ八戒、朝飯・・・・・・・」
悟空が起きるのと同時に目を醒ました悟浄が、
八戒かがいないと朝飯にありつけないことを思い出し、
流石に寝入っている女の部屋に入るほど無粋なことはするまいと、
八戒の部屋の扉を開けたまでは良かったのだが・・・・。
悟浄と悟空はフリーズした。
上半身裸の八戒と、下を履いていない(ように見える)が、
仲睦まじく抱き合って寝ていればそりゃあ。
後から上がってきた三蔵も目を見張る。
「あ、お早う御座います」
「八戒・・・?」
「なんですか?」
「どういうことだ」
「どういうことって、こういう事ですよ」
自分で何もないことはわかっていたし、
暑くてシャツを脱いだのも覚えている。
けれど、悪い虫を退治しておいても悪くはないだろう。
彼女に少なからず彼らが好意を寄せていることは知っていたから。
「んっ・・・・八戒・・・・?」
「お早う御座います。腰、大丈夫ですか?」
「平気。そんなにきつく抱いてなかったし」
「ちゃん!?」
「貴様ら」
「どうしたの皆」
「出刃亀はいけませんよね」
「何の話?」
「こっちの話しです」
話術と言うのは使ってこそ。
後々、変な誤解を真っ赤な顔で必死に否定するに、
昨日よりも増大した愛しさを感じてしまった自分。
なんとなく、これが日常と錯覚しそうな、
雲ひとつない朝。