ロケットの中にあの紙を入れて毎日を過ごす。
行ってらっしゃいもお帰りなさいもなくなって、
また、布団だけにヌクモリを求める日常を。
そんなの前に、観世音菩薩が姿を現したのは、数ヵ月後のことだった。
バイトの仕度のため、メイクをし、忘れ物を確認し、
鍵のかけ忘れがないかもう一度チェックしていたところ。
「今度の言い忘れは何?」
「俺様にそんな口聞けるのはお前くらいだよ」
用件を先に言わないのにイラついて、
番号をプッシュし、コール音に耳を傾ける。
「もしもし警察ですか?不法侵入者が・・」
「おい」
「バイト行きたいんだけど?」
「桃源郷よりもか?」
寂しくない振りをして、勉強して、働いて。
けれど、あの腕に抱かれたいと思わない日はなかった。
だから、勝手に切られた電話のことも忘れて、
断る由もなく、はこの地を踏んでいるのだけれども。
「暇・・・・」
2人が桃源郷に到着してかれこれ2時間。
観世音菩薩に至っては、最初の10分で音をあげて、
あいつらが着いたら降りてきてやるよと言い残し、消えてしまった。
流石血筋といったところか・・・・。
がそろそろ痺れを切らしかけ、
空に向かって吠えようとした時だ。
色々と入り混じった騒音が響いてきたのは。
「腹減ってる時に来んなよな!!」
「しっかり追い払ってくださいね。街がもう目の前ですから」
「って、何1人涼しい顔してんだよ八戒!!」
「ジープが街に突っ込んじゃっても良いんですか?」
「っちぃ!!」
空飛ぶ芸達者な妖怪の群れと応戦しながら、ジープでひた走る4人。
覚悟をしなければならない。色々と。
人々の悲鳴が、何故か耳から遠ざかって行くのが判った。
「オンナだ」
「餌だぞ」
「食え!コロセ!!!」
ぼけーっと突っ立っているようにしか見えない自分を捉えて、
標的を変更した妖怪達は、三蔵一行のジープを越えて急降下。
制止の声も無視して、は面倒くさそうに逮捕術の構えをとった。
亡き父親から教えられた、唯一使える術。
空からと言えど食い殺したいならある程度降りてくるしかない。
動きを封じることが出来れば自ずと急所も狙いやすくなるもので。
4人が街の入り口に辿り付いた時には、
もんどりうっている妖怪達の群れが転がっていた。
「すっげぇ!!なあなあ、名前なんてぇの?」
「お帰り!!」
「強いオンナの子ってのも魅力的だな」
「で、ちゃんは誰のヌクモリがいいわけ?」
「貴様、何者だ」
「っ!!離れろ莫迦娘!!」
「まあまあ、怖がってるじゃないですか。すみませんね」
「、一緒に寝ましょうか」
嗚呼。もう。
糞野郎としか、言いようがない。
「やっとか。遅ぇんだよお前等」
「糞婆、何のようだ」
「こいつを旅に同行させろ。それだけだ」
「ちょっと待て。何故・・」
「必要だからに決まってんだろ。じゃあな」
「おい!!!」
神出鬼没。
それは、あの神様のためにあるような言葉だ。
口火を切ったのはのほう。
ここでやると、覚悟は決めたから。
「です。自分の身くらいは自分で守れるので」
「よろしくお願いします。あの人が必要といったということは、
何かしら故があるんでしょうし、こんな妖怪さん達の真ん中で立ち話は無粋ですよね」
という八戒の言葉で、ようやく宿へと向かった一行。
彼女(彼?)が至極強引なのはもう事実でしかないので、
4人も半ば諦めているようだ。
宿について、とりあえず1部屋に集まった5人。
自己紹介も終えて、一服中。
其々が持っている光物に、大分安堵したのは言うまでもなく。
「で、さんは僕等の事について大概知っていると」
「そういう事」
「あの神様が俺らのこと言いふらすか?」
「信じないなら良いよ別に」
「オレは信じるぞ!!」
「ありがと悟空」
大好き。
と、続きそうに成った言葉を飲み込んだ。
寂しくない。けど、虚しい。
普通にしていようと、彼らと出会ったあの頃の自分で。
けれどそれは、とても窮屈で、とても困難。
「どうでもいいが、足手まといになりそうだったら捨てていくぞ」
「はいはい」
「っち!!」
舌打ちしか出来ないの?
黙れ!!
そう、はりせんが飛んできた、今まで。
「全然ダメじゃん」
「何が?」
「うん?私が」
「へ?」
「ねえ悟浄、抱きついてもいい?」
「え?大歓迎♪」
ポカンとしている3人を他所に、ぽふりと、いつかしたように顔を埋める。
ヌクモリは変わらないのに、変わったのは自分か、彼らか・・・・。
「さん、今後のために悟浄には近づかないほうが身のためですよ?」
「ちゃんから来てくれたんだから。なあ?」
「うん。八戒、そのさんってのいやだ」
「文句言ってんじゃねぇよ」
「三蔵様には一言も話しかけてないから安心して」
「なんだとっ!!」
「えっと、でよろしいんでしょうか?」
「うん」
花のように、笑った。
抱きつかれている悟浄然り、はりせんを取り出そうとしていた三蔵然り、
胡坐をかいていた悟空然り、名前を口にした八戒然り。
なんだか、知っている。
この、風景。
「なあなあ?」
「うん?」
「どっかで、会った事ある?」
「え?」
「ボクも、そんな気がしました」
「同じく」
「ありえねぇな」
「とか言いつつ三蔵様も思ったんだろ?」
「黙れ。ば河童」
凄く、凄く嬉しかったから、聞いてやった。
絶対に、返答に困るであろう問いを。
きっと、思い出したわけではないようだから。
「あのさ、1つ質問していい?」
「おい、猿の質問に答えてねぇぞ」
「あたしの質問に答えてくれたら答えても良いよ?」
「貴様!!」
「八戒、三蔵様ってカルシウム不足?それともただ幼稚なだけ?」
ぶふっと3人が噴出したのは言うまでもない。
三蔵の青筋が3割り増しになったのも言うまでもないが・・・・。
かといって銃をあげるということはしない・・・筈。
「ま、いいや。で、あたしの質問はその、皆がつけてるアクセサリー」
ぴくりと四者が反応する。
寂しそうに微笑んだを目撃したものはいない。
「どうしたの?アクセサリーなんて、
あんまり買いそうじゃないのにつけてるからさ。贈り物?」
「・・・・・・は知ってんの?」
「何を?」
「これが、何なのか」
しゃらんと音を立てるバングル。
自分が貴方色だといって、抱きしめて、あげたもの。
「知らないから聞いてるんだけど?」
「てめぇ、何を隠してやがる」
「異質な装飾物つけてたから不思議に思っただけ」
「ふんっ!!」
「実は、僕らにも判らないんですよ」
「そうなの?」
「いつだったけか?神様と戦った後くらいだよな」
「つけてたんですよ。記憶のない内に」
「じゃあ、つけたままなのはなんで?」
「質問は1つじゃなかったのかよ」
「いいじゃん。けち」
それは、なんだか、外してはいけない様な気がして。
これを外せば、なんだか空っぽになる気がして。
「邪魔じゃ・・・ないの?」
「別に。なあ?」
「まあ、格別邪魔と言うわけでも」
「オレは指輪だしねぇ」
「鬱陶しい」
何か、もやのかかった記憶。
知ってる筈だ。
途切れる。
判らない。