が一行に入って、1週間が経過。
最初のころには戸惑っていたの抱きつき癖にもなれ、
アクセサリーの話題で悪くなった空気も、大分前に一掃された。
ただ今は、初めての野宿の準備に走り回っている最中だ。
「八戒、この位でいいの?」
「十分ですよ。ホントに助かります」
「足手まといとか三蔵様に言われちゃってるからね」
その辺で取ってきた山菜と、少しの缶詰。
それから貴重なご飯を混ぜて雑炊を作る。
ふやけたご飯で少しでもかさを増そうという作戦。
後は適当な野菜炒め。
「3人ともご飯できたよ!!」
「やった!!飯!!」
「悟空、これ、向こうまで持って行ってくれる?」
「おう!!」
「洗い物はボクがしますよ?」
「食べ終わってから皆でしよう?」
端々に感じる労いの心。
とても、心地いい声の響き。
会った時に感じた懐かしさを今も引きづったままだ。
疑問には思うけれども、
彼女に聞いたところで返事が返ってこぬことなど百も承知。
だから、今はこの、心地いい空気を感じるだけ。
「ちょっ!悟空!!」
すいっと視線を3人の方へ戻せば、
腕に頭に皿を乗っけてふらふらと歩いている悟空を見つけて奪取した。
「んあ?」
「んあじゃないって。ほら」
「3皿ともお席までお持ち致します」
「お・・・願いしま・・・す?」
「お・・・願いしま・・・す?」
「どうしたの?急に改まって」
「いや、なんとなく?」
「変な悟空」
笑って、悲しそうな瞳で。
思い出して欲しい。
意図してやったことではないけれど。
アクセサリーはまあ、かなり色々含めたが・・・・。
これは自分の我侭だけど、誘導尋問で思い出してくれるなら。
なんだってしよう。
「はい悟浄。隣にあたしの分も置いていい?」
「お連れ様のお皿、置かせて頂いてもよろしいですか?」
「もち」
「おう、いいぜ」
右から出してしまうのは、もう癖のようなものだ。
悟浄もいつもどおり笑ったけれど、なんだか・・・・。
いただきますと食事を始めても、
小食のはすぐに食べ終わってしまう。
「もう少し食べた方が良いんじゃないですか?」
「ん〜でもお腹いっぱいだし」
「なんだよ、もう終わり?」
「1週間見てもまだ慣れない?あたしの小食加減」
お茶碗3分の1のご飯。
おかずもそれに比例して少ない。
だから、食い扶ちが増えたといっても、そんなに食費は変わらなかった。
「どうしたんですか?」
いきなり立ち上がっててこてこ歩いて行くに声をかける。
その間にも、確実にご飯が消えていくのを、
八戒はわかっているのだろうか。
やかんを持って戻ってきたにため息。
気が利くというより、もう、自分達の事を判っていると言った方が正しい。
「はい。三蔵様、お茶のお変わり」
「珈琲のお変わりいかがですか?」
「頼む」
「頼む」
「頼むって三蔵様、なにかしこまってるわけ?」
「うるせぇ」
「皆は?」
「貰いましょうかね」
「オレもオレも!!」
「ちゃん、オレも、頼む」
「てめっ!殺す!!」
三蔵の真似をした悟浄に発砲する三蔵。
それをスルーして悟空と八戒のほうへお変わりを注ぎにいく。
三蔵も、口をついて出てしまったのだから仕方あるまい。
この空気がとても・・・・・。
騒がしい食事を終え、ジープの上で丸くなる。
曇り加減の空に、どうぞ雨を降らさないでと願いながら。
真っ白な月が昇りきるころになっても、何故かは眠れなかった。
悟空のいびきが煩いとか、となりの悟浄の手が気になるとか、
まあ、色々と理由はあったけれど。
こっそりとジープを抜け出して、
先程まで料理をしていた、少し開けた場所に腰を沈めた。
いつの間にやら一掃された重たい雲は、
いったい何処へ行ったのだろう。
煌々と照りつけるお月様。
悟空が見たらきっと、饅頭みたいで美味そう!!と叫ぶ筈だ。
「よう」
少しの間見つめて、
初めてこの神様と会ったときのように、スルーして通り抜けようとした。
腕をとられて、それはかなわなくなってしまうのだけれど。
「何?」
「上手くやってるみたいじゃねぇか」
「何を」
「誘導尋問」
「いけない?」
「おう」
「は?」
期待した答えでは全然なかった。
おもしろくねぇだろ。
そう言ってるような不敵な笑みは、
まだ遥か遠い西の地の城に住む、白衣の烏を思い起こさせるほど。
「歪みはな、あれは予想外だったが」
「何の話?」
「退屈凌ぎの話だ。駆け寄ってくる4人なんぞ気色わりぃだけ。
お前もそう思うだろ?あいつ等が記憶を失ってなかったら・・・・ってな」
「ま・・・さか」
「あいつらの記憶をなくしたのはオレだ」
こちらに来て顔を合わせたとき、
自分の家で見た彼らが、走馬灯のように走ったのを知っているのか。
堅苦しくなった口調や、信じていない素振り。
悪戯の過ぎるこの神様を、ただ睨みつけることしか出来なかったのだけれど。
「簡単に術が解けちゃ、また退屈だからな」
「だから?」
「おつかいだ」
ぽいっと投げられた封筒を、律儀に拾って、宛名を見る。
「これ・・・・」
「届けて来い」
「めんどい」
「元の世界に飛ばされたいのか?」
「むかつく」
「痛くもかゆくもねぇぜ?」
「あんたじゃなくて、あんたをどうにも出来ない自分がです」
あちらさんルートが目の前に広がる。
一歩踏み出せばそこは吠登城でしたみたいな。
「お前がいなくなって、あいつ等はどうなるかねぇ」
「どうにもなんないでしょ。向こうの記憶が戻ったわけでもないんだし」
「どうかな?賭けるか?」
「絶対ヤダ」
「くくっせいぜい楽しませてくれよ?」
無視を決め込んだは、
一歩一歩、そのブラックホールまがいのルートへ近づいていく。
頭の中は混乱と沸騰と。
どっちにしても、この手紙を届けなければ、
彼らの隣にいることすらかなわない。
去り際にもう一度神様を睨みつけて、
ワープホールの中へと落ちていった。
「観ててやるよ。どこまで藻掻けるか・・・・な」