が編入してきて、幾週間かの時が過ぎた。
学校にも慣れたようで、階段から振り落とされることもなく。
中途半端な時期に編入してきたにも関わらず、
の成績は良すぎたと言って良いだろう。
「ミス・素晴らしい。グリフィンドールに10点」
どの授業でも、加点を重ねてきたは、
さらに孤立していく。
その孤独も、にとって、
取るに足りない日常の一部でしかないのだけれど。
ただ、が孤立するのは、
その性格からと言うのもあるが、
もう一つが・・・・。
「セブ」
「なんだ」
「これ。言ってたでしょ」
「・・・何故持ってるんだ?絶版になったはずだろう」
「内緒」
「ふん」
「私も読みたいから、早く返してね」
「いいのか?」
「愚問」
「分かった」
全生徒が集まる朝食の席での光景。
の編入してきた次の日から、ほぼ毎日。
スリザリンとグリフィンドールと言うだけで、奇妙な目で見られる。
2人とも、全くもって気にしていないのだが。
気にしているとすれば、
あの4人ぐらいで。
「まただ」
「どうでもよくね?」
「あの問いに答えられなかったくせに偉そうなこと言わないでくれる?」
「なんだよ。リーマスは気になるわけ?」
「興味はあるって言ったはずだけど?」
「スミマセン」
「で、ジェームズ、あれ、どう思う?」
「スニベリーがかい?」
「どっちもだね」
「理解しかねるよ」
至極楽しそうに談笑しながら、
手に手を取ってとは言わないが、
それに近い状態で仲睦まじく出て行く2人。
4人はそれを穴が開くのではないかと言うほど見つめていた。
「はどうしてこんな時期に転入してきたんだろう」
「珍しいね。リーマスがそんなに興味を持つなんて」
「友よ、彼にも恋する時期がやってきたのだよ」
「ジェームズ?」
「いやいや。冗談冗談」
「自分で聞いてみりゃいいじゃねぇか」
それが出来ればここまで悩まない。
いつでもどこでも、あの2人は一緒だ。
最初のイメージが強いのだろう。
彼女も自分達に近づきたくない様子であるし。
とりあえず状況を把握できていないシリウスを黒いオーラで威圧しておいて、
扉の閉まる音を、右から左へ聞き流した。
今日の1時間目は魔法薬学。
スリザリンとの合同授業。
満月前1週間を切って、リーマスの体調はすこぶる悪い。
この状況をどうにしかして欲しいと切実に願うのも、
しょうのないことだと思うのである。
「では、始め」
今ほど、見た目穏和なリーマスが、
魔法薬学の教授を、此処まで憎いと思ったことはかつて無かったかもしれない。
自分の机の横は、スリザリンの領域。
隣に座るパートナーは・・・・。
「じゃ、始めようか」
スネイプの視線やら、痛いものを感じる。
体調が悪化していくのも気のせいではないだろう。
そんな思考にふけっている内に、彼女はさくさくと作業を進めていた。
この際だ。
またとないこのチャンスを活かそうと心に決めた。
「ねぇ・・」
「あ、もうその芋虫の輪切り、入れた方が良いよ」
「あ・・・うん」
何故リーマスがと組んでいるのかと言えば、
ピーターの失敗を見かねた教授が、
薬学に関しては右に出る者のいないスネイプと組ませたためである。
必然的に、今までスネイプと組んでいたが、自分のパートナーになる。
教授の言ったとおり紫色から徐々にスミレ色に変化していく薬を見ながら、
飲み込んでしまった言の葉を再度口にした。
「僕らのこと避けてるでしょ?」
「・・・・避けて欲しいんじゃないの?」
「え?」
「貴方は空気というモノが読める?」
「ごっごめん。何の話?」
「湖の畔での話」
ふと、が転校してきた日のことを思い出してみる。
シリウスにそんな言葉を発した気がしないではない。
と言うことは、あの時の最後の言葉で察しろということか?
「どうして僕らが避けて欲しいだなんて?」
「だって、あの黒髪美人は私のこと嫌ってる」
「興味がないだけだよ」
「同じ事でしょ?つまりはどうでも良い存在」
「ボクはあるよ」
「興味?」
「そう」
「私がモノみたい」
出来上がった薬は、もう瓶詰めにされていて、
すいっと渡されて手に治まったことも、
思考の淵へと沈んだようだ。
他のペアは、まだ作業中であるというのに。
「貴方はどう思う?」
「・・・っ何が?」
「普通の定義」
話題が飛びすぎていて、
思考がついて行かなかったことに、
リーマスは少なからず、自分を叱咤した。
「分からない?」
「・・・・自分を正当化するために造る、良く判らない大多数の誰かの思考の固まり」
目を見開いて、こちらを凝視する彼女。
こんなにも表情豊かだったのかと、リーマスは内心驚いていた。
しばらくすれば、それは満面の笑みへと変わっていく。
「・・・ボクはね。そう思うよ」
手の中のビンを凝視して、
そう返すのがやっとだった。
「好き」
「え!!??」
「そういうの、好き」
「あっああ・・・・・。でも、変でしょう?」
「変?何が変?」
「ボクの考え」
「変っていうのは、普通でないこと」
「そうだね」
「普通って?」
「あっ・・・・」
「変じゃないと思う。私は・・・ね?貴方は?」
「変じゃないと思うよ」
なんとなく、彼女という存在が分かった気がする。
終業のチャイムと共に、完璧な薬を提出して、グリフィンドールに30点をもらった。
1週間後の事件なんて、露程知る由もなく。