あの日から一週間、リーマスもまた、と会話するのが楽しくなった。
スネイプと鉢合わせすることもあるのだけれど、
それすらも愉しいと思えるほど。
自分はどうかしてしまったのではないかと、
友人達にも聞かれたが、別に何もと答えるだけで。
それが嫉妬となって膨れ上がっていることも知らずに。
そして、満月の日となった。
「それじゃあ」
「ああ」
「気をつけてね!」
「ありがとう。ピーター」
シリウスの顔を見て、ジェームズの顔を見て、ピーターの顔を見て。
このことを知らないには、当たり障り無い理由を述べてきた。
だから、あんな事なんて・・・・。
草木眠る丑三つ時と、
古人は風流な言葉を考えてくれたモノだ。
などと、自室の窓に腰掛けながら、は考えていた。
満月など、目に入っていないかのように。
ふと下を見やれば、
見知った影が、暴れ柳の方へと歩いていく。
スネイプは規則を破るような人ではないから、尚更驚いたようだ。
「なに?」
答えの返ってこぬ問いを、発してしまっていた。
しばらくすれば、また1人が掛けていく。
切羽詰まっているのか、全速力で。
は満月を見て、
もう姿の見えなくなった2人を思い、
今日の約束を断った、もう1人の価値観の合う友達の体調を思い浮かべ、
昼の会話を思い出して、何かを悟ったように箒に跨ると、
窓からすいっと飛んでいった。
暴れ柳の洞の様なところに滑り込み、
続く道を風を切って飛ぶ。
話していて楽しいと思える2人に、傷ついて欲しくなかった。
会話を、あそこまで楽しめたのは、
本当に久しぶりだったから。
どこかの屋敷だろうか。
唸り声と、悲鳴と、怒鳴り声。
は箒から降りて、階段を上がっていった。
「リーマス!!」
必死に呼びかけれども、友の瞳に自分は映っていない。
早く横にいる宿敵とも言える人物を帰さなければ。
どちらにとっても好ましくない状況になる。
かといって、アニメーガスになるわけにも行かず。
「セブ、平気?」
「!!何故お前が此処にいる!!」
「貴方が見えて、君が見えて、リーマスの体調を思い出したから」
つまりは、こうなっているかもしれない予想が付いていたということ。
「ケネイラ」
「リーマス!!」
吹っ飛んだ友達に駆け寄ろうとして思いとどまる。
自分が、呼んではいけない名前を発していることなど、
きっと気付いてはいないのだろう。
「力は押さえたから」
「だけど・・」
「ここは私に任せて、帰ったら?」
「バカか!!」
「なに?」
「こいつがなんなのか判っているんだろう!?」
「オオカミ人間でしょ?だから?」
「だから?だと!?オオカミ人間がどれほど世間で・・っ!!」
そうだ。
今までどうして2人が一緒にいたのか。
「言葉の世界が似ていた」
「それだけの仲」
「それだけの仲」
「それだけの仲」
「それだけの仲」
の目が、体が、オーラが、
そうだったでしょうと語っているのが判るくらい。
自分以外の誰かの言葉の価値観で、
縛られることを嫌ったのはお互い様だったはず。
すいっと両手を包んだの手は、冷たかった。
「心配してくれてありがとう。セブ。でも、帰って」
「」
「私は、リーマスにも、セブにも、笑っていて欲しいの」
「、ボクは!」
「ミスター・ポッター」
「えっあっうん」
そう答えることしかできないロボットのように、
ジェームズはそう発すると、
スネイプの腕をつかんで、元来た道を戻った。
「リーマス」
言葉の通じないこの生き物。
先ほどの攻撃から目を覚ましたのは大分前のこと。
「おいで」
「ぐるううる」
言葉に導かれるようにの元まで来たオオカミ人間は、
床に座ったの膝に、頭を乗せて、
気持ちよさそうに眠りについた。
「せめて、眠りの中では良い夢を」
次の日の朝、
医務室のベッドで起きあがったリーマスは、
昨日のことを走馬燈のように思い出し、
さっと顔を青から白へと変えた。
「リーマス。おはよう」
「あっ、ボクはっ・・・」
「大丈夫。誰も噛んでないから」
「よかっ・・え?どうしてがそれを!?」
「あの晩、夜中に歩いていくセブルスを見て、
血相変えて後を追いかけていくポッターを見て、貴方の体調を思い出したから」
「それで・・・・判ったの?」
「判ったよ」
「には敵わないな」
「そう?」
しばらく笑いあっていれば、
3人ほどの足音と、怒鳴り声。
「私行くね」
「あの呪文は?」
「内緒」
「いてもいいのに」
「黒髪美人」
「シリウスのことでしょう?平気だよ」
「私が嫌」
すっぱりと言い切って、入れ違いに医務室を後にする。
向かうのは図書室で、
いつもと同じ席で、いつもと同じような本を読み漁っているであろうあの人の元へ。
「セブルス」
「・・・・・もう来ないかと思った」
「どうして?」
「ボクが、あんなことを言ったから」
「自分で判って途中で止めたでしょ?」
「でも・・」
「セブは、もう私とお話ししたくない?」
「そんなことは!!」
合わせなかった目を合わせてしまった。
ここで仲睦まじくなった日と同じくらい綺麗な笑顔がそこに。
あの日よりも至近距離で。
自然、頬が熱くなるのを感じる。
「セブが噛まれて無くて良かった」
「その言葉、そっくり返す」
「リーマスに失礼かな?」
「ボクの中ではそうはならない」
「そう?」
「そうだ」
照れ隠しで本に視線を戻して、
吹く風になびいた髪に、また瞳を奪われて。