事件からいくらか時が流れて、暑い夏が過ぎ、一つ経験をつんだ、秋の事。
は相も変わらず、変人のレッテルを貼られたまま、日常を過ごしている。
筈だった。
「あ、ゴメンなさい?」
「いいえ」
許さないと言ったらどうなるのだろうかと考えながら、
あからさまにぶつかって来た何人目かを見送る。
新学期が始まって3日も経たないうちに、数えるのは止めてしまったけれど。
「・・・・・またか」
「そうだね」
「そろそろ関わるのをやめたらどうだ?」
「だって面白いから。特にシリウスが」
図書室の片隅。
いつものように課題をこなしながら、先程目についた光景に言及する。
自分と2人きりでいる時に、他の奴の名前が出て苛々するようになったのは、いつからだったか。
朝も昼も休暇も、一緒にいた筈なのに。
何故か埋まらないような気がする溝。
それは、あの事件以来、開いてしまった気さえする。
「」
「なぁに?」
「何かあったら言え」
「どうして?」
「それは・・・・」
自分がの1番でありたいから。
「どうして?」
言葉のやり取りは、が1番好いている遊びだ。
悪戯仕掛け人達とも。
がシリウスを気に入っているのは、思った通り穴に嵌まってくれるから。
分かっている。理解らないだけ。
「・・・・・・・・」
「セブらしくないね。何かあった?」
「何も・・・ない」
「そ。じゃ、いいけど」
そう言って『闇の魔術とマグル学の化学』という本に目を戻した。
スネイプは知らない。
隣にいるだけで安心してしまう存在を。
それを表す詞も。
だから自分もまた、本へと視線を戻してしまったのだった。
「ミス・?ちょっといい?」
「今忙しいの」
「待ちなさいよ」
「忙しいじゃ通じなかった?暇じゃないなら通じる?」
「ふざけないでくれる?」
「貴女に拒否権はないの」
だったら疑問なんかにしなきゃいいのに。
そう思いながら、ふと過ぎった昼間の言葉。
嬉しかった。
だんだん増えている女生徒は気にならずに、
導かれた部屋へすんなり入る。
ずっと、スネイプの言葉ばかりを反芻していたから。
闇の中へ。
がちゃり。
「シリウスに近づいた罰よ」
「のこのこ着いてくるなんて馬鹿みたい」
「リーマスはどうしてこんなのと仲良くするのかしら」
「あいつが付け入ったに決まってるでしょ」
遠ざかって行く笑い声を、聞いている事しか出来なかった。
強要したくせに、のこのこなんて矛盾した表現に突っ込むことも。
「っあ・・」
手を引かれて、放り込まれた闇。
肩に覚えた痛みはいつしか狂乱と共に消えていた。
無情に刻まれる時だけが耳に残る。
あの、想い出。
「おい」
「なんだいスニベリー」
「を知らないか」
いつもは好んで避ける連中。
されど、そんなものどうでも良い事態だから。
自分の持っているちゃちなプライドや価値観なんて、
直ぐに棄てられるくらい。
「?お前と一緒じゃねぇのかよ」
「防衛術の後、出て行ったきりさ」
「今日は君との約束があるって断られたからね」
「そうか。ならいい」
スニベリーと呼ばれたことにすら気付いていないのか。
今のスネイプには、の事しか見えていないのだ。
が時間に遅れる事などない。
時間は縛って縛られるものだから、逃れようとするだけ無駄。
の言葉を借りるならそうゆう事だからだ。
そんなスネイプの態度に訝しさを覚えたのは、1人だけではなかった。
「何かあったのかい?」
「・・・・時間になってもが来なかった」
「それだけかよ。遅れる事だって・・」
「ないな。に限ってそれは」
「はあ?」
「みんなぁ!!!」
走り込んできたピーターの報告を聞いた瞬間には走り出していた。
星を見ながら、天文学の課題をこなしている時に、知ってしまったからだった。
彼女特有の"闇"の定義
啜り泣く声が聞こえる。
それに混じって自分を呼ぶ声も。
いつものように、一緒にいれば良かった。
後悔なんて、読んで字の如く。
なら、笑って言うだろう。
「!!!」
「退け!アロホモラ!!」
簡単に開いた扉の向こうで、彼女が倒れていた。
「!!」
「出して・・・ここから・・・・」
「!ボクを見ろ!!」
「ぃ・・・ゃ・・」
「頼む」
焦点のあっていない瞳に、なんとか映りたい。
そうしなければ、このまま何処かに行ってしまいそうで。
「セブ・・・ル・・ス」
自分の名を呼んで、意識を手放したを抱き上げたスネイプは、
他の誰でもない自分の名前を呼んでくれた事に高揚感を覚えながら、
悪戯仕掛け人達が唖然とするような笑みを浮かべて、医務室へと赴いた。
「気が付いたか?」
「セ・・・ブ?どうして・・」
「教室で倒れたから連れて来た」
「うそ」
「覚えているなら聞くな」
「セブ」
名を呼んでいた。
ずっとずっと。
他の誰でもない彼の名前を。
来てくれる気がして。
「どうした?」
「ずっと一緒にいようか」
「なっ///」
「来て欲しかった。セブルスに」
「・・・・・判らない」
「私もだよ。ただ、安心できるって思ったの」
「それは・・・」
曖昧なままが嫌いなだけで、愛していると、そう言ってしまっても良いのかどうか。
繋がれたままの手が、熱をおび始める。
がこちらを向いているのははっきりと分かった。
定まらないのは自分の視線。
「嫌い?」
「違う!!」
「じゃあ、嫌いって思うまでで良いから」
「っ・・・・」
「セブルス」
身体は正直なものだ。
言葉が難しいなら、最初からこうすれば良かった。
抱きしめた腕の中で、息を呑んでいるを、容易に想像出来る。
「有り難う」
「ボクもただ、安心できると思っただけだ」
「似ていたんだね」
「ああ」
「「似ていただけ」」