楽しいだけが、アルバムに残っていれば良かったのに・・・・。

とスネイプが付き合うようになって、時は経ち、彼らは卒業という時期をむかえようとしていた。



2人で過ごしたイースター休暇。

初めてのキス。

嫌々ながらメイクアップしたダンスパーティー。

リーマスからの告白騒動。

抱きしめて、温もりを感じた。

だけど…。







、話がある」

「今?」

「ああ」




朝食の席で見慣れてしまった、グリフィンドールとスリザリンとの行き来。

いつも以上に真剣な顔をしていたから、も悪戯仕掛け人も、からかう事が出来なかった。

2人は注がれた視線に気付かない振りをして、人通りの少ない中庭へと連れ立ってゆく。




「どうしたの?」

「別れてほしい」

「え?」

「僕との進む道は違う」

「どこへ・・・行くの?」




初めてキスをした場所に座って、明後日の方向を見ながら、別れ話をする。

重なっていた手は、きっと2人とも汗ばんでいただろう。

驚きはしたが、それだけだったは、知りたい問いを口にした。




「闇の陣営に入る」

「セブが決めたの?」

「ああ」

「私の事好き?」

「・・・分からない」

「結局一度も言わなかったね」

「そうだな」

「「ただ一緒にいたかっただけだから」」




自然と眼を合わせた。

どちらからか近付いていった唇が合わさって数秒。

木漏れ日がきらりと。




、愛してる」

「私も愛してる。さよなら」

「永遠に」




相反する言葉は、意図もたやすく零れ落ちたのに、頬を伝うことはなかった。

歩いて行くそのせなを見ながら、幾度も考えた『愛してる』の定義が頭の中を回り始める。

授業は身に入らず、食事も知らぬ間に終えていて。

空を見上げれば三日月。

気付けば湖のほとりで座っていた。

初めて、出会った場所。






「リーマス・・・」

「ここイイ?」

「どうぞ」




いつも香っていた薬品のニオイはしない。




「聞いたよ。別れたんだって?」

「一緒にいないようにしただけ」




そう。それだけの筈なのに、の頬を伝う雫が、

ぽたりぽたりとローブに染みを作ってゆく。




は、一緒にいたかったんじゃないの?」

「分からない」

「本当に?」

「分かりたくない」

「僕もその言葉が適切だと思うよ」

「束縛されたくないから、束縛しなかったの」

「うん」




だけど、束縛されたかった。

淡々と述べるを、リーマスはただ優しく抱きしめる。

奪うから覚悟しておけと、スネイプを脅してから大分経って、

2人は何処か、自分は行き着けない別の場所にいるんだと分かった。

だけどもの1番になりたい想いは今もあって。




「魔法薬の学会に入るんだよね?セブルスのためだったの?」

「留まってくれるかもしれないって」

「曖昧な主張」

「言葉にしなきゃ伝わらないって知ってたのに」

「気付いて欲しかった?」




こくりと自分の腕の中で頷いたに、そっとキスをおとす。

言葉のやりとりをしている時だけでも、自分を見てほしい欲望。




「僕と一緒に行こうよ」

「何処へ?」

が行きたいところ」

「セブルスの隣」

「忘れろとは言わない。曖昧な事も言いたくない」

「リーマス」

「言葉遊びの相手としてだけでもイイから」

「一緒にいたいだけ?」

「僕はと」




しばらくの沈黙。

答えを待っていたリーマスが、ふと顔をあげれば、

眉間に皺を寄せて去っていくスリザリンカラーが目に入った。

睨み付けて、手を離したお前が悪いと眼で語る。

どちらも抱え込めるだけの災難を囲っていると知っていたけれど。

だけど、自分勝手な欲望を、止めたくなかったから。











何も言わずに別れるなら、こちらから離れようと思った。

自分が区切りを付けたかっただけ。

突っぱねて寮に戻って来る筈だったのに。

そうゆう事は得意だった筈だ。

と会うまでは。



色んな事を考えながら1日を過ごし、寝付けぬ夜に苛立って、外に出た。

と初めて会った湖のほとりへ自然と足が向かう。




「・・・・?」




こんな夜中に聞こえてくる、誰かと誰かの会話。

声の主が分かって引き返そうとしたが、

足が鈍りのようで、どうしてもそこから動くことは叶わなかった。




「魔法薬の学会に入るんだよね?セブルスのためだったの?」

「留まってくれるかもしれないって」

「曖昧な主張」

「言葉にしなきゃ伝わらないって知ってたのに」

「気付いて欲しかった?」





自分の為に?

嬉しかった。駆け寄って抱きしめたかった。

ただ、どちらからであれ触れた唇が、彼を現実に引き戻した。



から離れたのは自分だ。

向こう側につかなければ、自分は殺されていただろう。

下手をすれば、も殺される可能性だってある。

けれどもそれは、自分が勝手に思ったことで、に言えばきっと笑い飛ばしたに違いない。

とても宙ぶらりんな言の葉だね。と。

曖昧な主張が運悪く重なっただけ。



スネイプは踵をかえすと、その場所から逃げ出した。

忘れてしまわなければならない""という存在から。











そして卒業式の日。




「さよならって、沢山込められるよね」

は?」

「またねって言いたかったけど」

、僕はいつでも待ってるから」

「ありがと。またね」




ダンブルドアに用があるらしく、触れるだけの口づけを交わしたリーマスとは、

別の方向へと歩き出した。

目的地は同じであれど。

リーマスと共に在ることをは決めた。

逃げであれ、なんであれ、は自分のあの世界を取り戻したかったのだ。

何はなくとも、原点に戻ることを求めて。

言の葉の世界をもう一度見つめ直して、それから。



ふと見上げれば、ここ幾年かの世界が居たけれど、は何もしない。

"自分"は何もしないと思ったから。




「「ありがとう」」




重なった言の葉も、数秒前の過去に消えてゆくのを、ただただ、待ち続けた。

ここでごみ箱に棄ててしまうために。