彼を思いつつリーマスに抱かれるだけの1年。

言の葉を見つめ直した3年。

自分に言い聞かせた2年。

愛するのではなく、癒される関係だと気付いて、心に落とすまで1年。

それらの生活が馴染むまで4年。

そして、転機。




「ホグワーツに?」

「そうなんだ。私なんかが行っていいものか・・・」

「なんかって素敵。卑下できるって事は、自分に出来ないことを知っているって事」

らしいよ」

「会えるのが夏休みだけになっちゃう」

がホグワーツに来ないならね」

「え?」




カップから溢れそうになった紅茶を慌てて止めて、リーマスに向き直った

あの地へ行けば、11年かけて築き上げた今の自分が、伸から崩れてしまいそうで。

まだ、会いたいのかもしれない。




「どうして?」

「薬学の担当が誰だか知ってて言ってる?」

「誰?」

「行けば分かるから。行こう」




半ば強引に押し切られたような気がしない訳ではないが、

大いなる信頼をリーマスに寄せるようになったは、少し考えて、イエスと返した。










そして、ホグワーツ。

シリウスがアズカバンを脱獄してから、

リーマスの体調は悪くなっていたのだが、の薬でなんとか持ちこたえていた。

懐かしの校舎やゴースト達が彼女らを迎える。




「よう来たの」

「お久しぶりです」

「あの、私、何をするか聞かないまま来たんですけど」

「簡単な事じゃよ。脱狼薬を薬学の先生に作って頂く事になっての」

「その人の助手というわけですか」

「そうゆう事じゃ」

「分かりました」

「では、大広間へ。生徒達が待ち兼ねとる」




まだ何か、の中にはわだかまり。

薬学の学会に入ったおかげで、知識だけはあった。

だが、世間でいう異端な自分は、人に付き従う事など出来るのだろうか。



大広間への道順を辿りながら、昔に浸ることもなく、ただダンブルドアの後ろに着いて行く。

もう少しの思考が回復していたなら、

脱狼薬を作れる魔法使いが随分少ないことや、

その少人数の殆どが、かなりの御老体であることを思いだしたのだろう。



だが、これから訪れる面白くない言の葉の応酬を聞き流さねばならぬ時に思いを馳せるが故、

その他の事が、ただ目前を通り過ぎるだけの事物と化していた。

壇上にあがってもそれは変わる事なく。

ぼーっと自分の世界に似たモノを捜しているだけ。




「さて、新しい先生の紹介を待たせて悪かったの。
リーマス・J・ルーピン先生。闇の魔術に対する防衛術を教えて下さる」

「よろしく」

「それから、魔法薬学の助教授を勤めて頂く。先生じゃ」




ぺこっとお辞儀だけして下がれば、何故かざわつく大広間。

あれの助手だって。

可哀相に。

なんでだ?




「ちなみに2人とも、グリフィンドールの卒業生じゃから、何でも聞くと良い」




くるりと振り返って、教職員席を見れば、を凝視する2つの瞳と重なった。

ずっとずっと傍にいたいと、最初で最後に願った人。




「セブルス・・・」




知らず彼の名が口からぽろり。

ダンブルドアは気にせず自分の席に着いている。

生徒達のざわめきは大きくなるばかり。

は分かっていた。

自分を待っていてくれる人が、有り難いことにそこにいること。




「自分で、決めたんだね」




ふっと微笑んで、リーマスの手を取り、ぽっかり開いた彼の隣へ歩を進める。

2人が座るのを合図に出て来た食事達は、11年ぶりに色付いて、の瞳に入って来た。




「お帰り」

「・・・・・」

「帰って来たなら教えてよ」

「その必要はないだろう。貴様は我輩の何でもない」

「そうか。ダメだな。セブルスに付け入る隙を与えるなんて」

「ルーピンとの生活でなまったのではないのか?」




暗に戻ってこいと叫ぶ。

今は何者でもないから、今から自分の者になれと。

心内の想いは無意味だと、あの時判った筈だったのに。




「そんな事ないよ。きっと3年じゃ足りなかっただけ」

「言葉は増え続けているしね。は後戻りしたんだから」

「後戻りか・・・身体的なら頷けるけど」

「心は曖昧でも、何故だか身体の中枢だって話をしたこと、忘れたのかい?」




遠退いて行く。

自分の知らないの今までを見て来た男。

自分に向けられていた微笑みが、瞳が、詞が・・・・。

気付けば無作法にも、椅子から荒々しく立ち上がって、足音を響かせながら大広間を出ていた。




「どうしたの?」




ビクリと振り向けば、別れた時と同じ顔。

もう我慢なんて出来なくて、を抱きしめる。




「セブルス?離して」

「なら何故、我輩に着いて来た。ルーピンと朝食を取っていれば良かっただろう」

「生きていてくれて有り難う。それを伝えたかった」

「お前だけ幸せを手にしてか?」

「貴方の怒りは貴方のモノでしょ?私の所為?」




そんな事を言いたかったんじゃなくて・・・。




「愛している」

「そう」

「我輩の元に戻って来てくれ」

「嫌よ」



「貴方は変わってしまった。私が愛しているって、曖昧な言葉でも伝えたかった貴方じゃない」




愛しすぎて、愛しすぎて、

曖昧なその言葉でを縛ろうとしている自分に気付いた。

一度も愛していると言わない関係。

されど共に在った2人は消えた。

1人は異端ではなくなり、1人は異端に戻ってしまったから。




「教授」

「・・・・それ以上ではないとゆう事か」

「仕事だから。またお話出来ると良いね」

「ああ」




お話出来るまで、言葉の世界が広がれば良いね。

そう言っているように聞こえた。

闇の陣営で無くしてしまった詞は、返ってこない。

お前の事を考え続けたなど言おうものなら、それこそ口すら聞いてくれなくなるかもしれない。




価値観が似ているだけ。




ただそれだけ。されどそれだけ。

価値観どころか、世界観ごとひっくり返ってしまった自分には、

出て来たリーマスと2人で歩いていく姿を、ぼーっと見つめていることしか出来なかった。