取り返しのつかない過去。

日常をみなくなって幾日が過ぎただろう。

爆発してしまった思いに自己嫌悪して。



それでも、今も、

キスして、好きって、愛してるって、

抱きしめて、抱いて、その、アツイ腕の中で。




「っはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

、大丈夫?」




今は大広間での食事時間。

あの時何故、忘却呪文をかけてこなかったのか。

は今でも自問自答する。

もう直ぐいなくなるのに。

ダンブルドアの衰弱具合からして、もう直ぐなのに。




「ん。平気」

「じゃ、フォークを進めなよ。全然食べてないじゃないか」

「だからそんなに細いのね?」

「そうか?」

「折れちゃいそうなくらい」




食欲は激減した。

自分でも判るくらい、こけてる。

だって、隣に君がいないから。

目を合わせないように。

関わりが途切れるように。




「ご馳走様」

?」

「俺、用意取りに行って来るわ」




あの日から何日経ったかなんて、

全く覚えてなんてなくて。

一人で迎える朝など慣れた筈だったのに。

足早に大広間を去って、自分の部屋へと赴く。

誰かに抱かれる事に虚しさを覚えたのは、何時ぶりだろうか。




「そして誰もいなくなる・・・・・なんてな」




欲しいものは、いつでも手に入らないんだ。

感慨に耽っていたは、気付かなかった。

毎日毎日、聞いては駆け出していた足音が、

後ろから近付いて来ていることに。




「おい」

「っ!!!」




あからさまな脅え。

肩に置かれた手を払いのけたは、

言の葉の漏れない口を開いたまま、

目の前に佇んでいる黒尽くめのそいつを見つめた。




「なん・・・・ですか」

「話しがある」

「もうすぐ、授業が始まりますから」

「1限目はDADAだったと記憶しているがね」




何故呼び止めたか。

其れは、スネイプが一番知りたい答えだった。

あの日から、自分が何をされたのかはっきりと理解するまでに数日。

避けられていると判るまでにさらに数日。

ただ、思い浮かぶのは、

自分が辱められた事でも、薬を盛られたことでもなくて、

の、悲しそうに揺れる瞳。




「着いて来い」

「・・・・ぃゃ」

「なんだと?」

「俺、嫌いな奴には着いて行きたくないです」

「ほう?あんな事をしておいて嫌いとは・・」

「嫌いだ!!大嫌いだ!!」




好きだと瞳では訴えてるのに。

抱いて欲しい。

時間を忘れさせて欲しい。

だけど、だけど・・・・・。



木魂するのは拒絶の音色。

子供の頃、幾度となくかけられたその魔法は、

解ける事無く心に刻み込まれている。

盛大な舌打ちをかましたスネイプは、

走り去ろうとするの腕を掴み、

そのまま引きずる様にして自室へと赴き、ベッドの上に叩き付けた。



ベッドにしては痛々しい、

ドスンという音が部屋に響く。




「なんっ・・・っ!!」




押さえつけて、唇を奪い、

そのままカッターシャツに手をかけると、

ボタンが掛かっているのも気にせずに剥ぎ取ってやった。

飛んでいったボタンが、床にはねる。





「っやだ!!やめっ・・・!!」

「我輩だけか!!」

「・・・・・っえ?」




あの時にずっと、想いを馳せていたのは。




「貴様はそうも簡単に忘れてしまえる事だったのだな!!??」

「何・・・・」




自分は何を口走っているのだろう。

そうだ。ただ、そう。

あんなにも必死に求められる事なんてなかったから、

頭で拒絶して、身体で求めていた。

傍にある、ヌクモリ。




「出て行け!!今直ぐだ!!」

「・・・・・・・・・・泣いて・・・」

「っ!!」




頬に残っていく痕を見て、はただ呆然と、

スネイプを見るしかなかった。

一生懸命に拭おうとしても、溢れてくる涙に戸惑うスネイプ。

は気付けば、その細くなりすぎた腕で、

スネイプの身体を包み込んでいた。




「ごめん・・・・俺、ホント嬉しくて、セブに会えたこと。
でも、セブは忘れたいよな。あんな辱め。忘却呪文、かけてもいい?」

「違う!!!」

「何が・・っ」




また貪る様なキス。

下から突き上げるようにして動く唇と舌に翻弄されながら、

はその感触を楽しんでさえいた。

融けてゆく。




「セブっ・・・!」

「勝手な事を言うな。落とすと宣言したのはお前だろう」

「だっ・・」



「っ!反則だ。そんな」

「そんな。なんだ?」

「俺のして欲しい事、全部・・・・」




今度はが涙を流す番。

ふうわりと抱かれた腰。

ふうわりとあがった口角。

愛していると囁かれて、舐め取られた涙は、きっとしょっぱかったに違いない。




「莫迦みたいだ」

「みたいではない。莫迦なのだ。今頃気付いたのか?」

「酷いな」

「何とでも言え」

「愛してる」

「聞き飽きた」

「オレの時間をあげる。全部」

「仕方ない。我輩以外に貰い手がいないのだろう?」

「うん」




時のやり取り。

身体のやり取り。

愛のやり取り。