市場でアイツを見つけた時は、目を擦った。

あの、むかつくくらい自信満々なアイツではなくて、

必死に果物を買い込んでいて、

俺の隣を目にも留まらぬ速さで駆け抜けていったから。



「おい、ありゃ、鷹の目じゃねぇのか?」

「人違いだろ」

「俺もそう思いてえな」




遺憾ながら素敵眉毛と同意見らしい。

転がる林檎を追いかける姿なんて見たくなかった。




「「・・・・・・・・・」」




向かっているのは俺達の船と同方向。

顔を見合わせた2人は、でかい紙袋を抱えたまま、

そいつの後を追った・・・・というより、自分たちの船に行くついでに、

少し、興味を持った余裕のない王下七武海の大剣豪を観察するため。












、帰ったぞ」

「ミホーク・・・」




ベッドに横たわるに駆け寄って、額のタオルを変えてやる。

洗面器の水は、既に温くなっていたから、キッチンへ行って。




「何が食いたい?林檎か?」

「食べたくない」

「ならん」

「ミホ・・」

「俺が用意してやるからしばし待て」

「いや・・っちょ・・」




掠れる声を絞り出しても、

ミホークに真意は伝わらなかったようで。

このまま寝かせてくれるだけで良いのにと、ベッドの上で溜息をついた。



案の定、がしゃん。からから。

など、耳を覆いたくなるような音が聞こえてくる。

痛む頭に顔をしかめて、ふらつく足を動かしながら、キッチンへと向かう。

一生懸命に包丁を持って林檎と格闘する鷹の目の背中に、

苦笑をもらすしか、出来なかったのだけれど。



ひたひたと近づいて、

ぽすりと背中に顔を埋めてやる。

やっと気付いたミホークは顔をゆがめた。




「寝ていろ。すぐに・・」

「イイよ」

「ならん」

「半分にしてくれたらスプーンで食べるから」

「・・・・・・」

「ね?」

「すまぬ」




力なく笑えば横抱きにして、もう一度ベッドへと連れて行ってくれる。

数秒して、皿の上に載った真っ二つの林檎も一緒に。




「ありがと」




しゃりしゃりと心地よい音が響く。

微笑んでやれば安心したようで、やっとこさ、船陰に潜む気配に気付いたらしい。

黒刀を持ち上げて、殺気を飛ばす。

もちろん、に害がないように調節して、だ。




「出て来い。ロロノア」

「気付いてたのかよ」

「今、気付いたのだ」

「・・・・・・・・(まじか)」




船のキッチンで、目も覆いたくなるような諸行をなしていた

鷹の目の姿を脳内から消去したばかりだった2人。

ベッドに座って、鷹の目のマントを肩からかけた少女を見て、

鷹の目を見て、もう一度少女に視線を戻した。




「・・・・・うちの船医に見せた方が良いんじゃねぇか?」

「船医を乗せているのか」

「凄腕だぜ」

、どうしたい」




声を出したくないので首を縦に振ったを見て、頼むと一言。

殺されなかったことにゾロとサンジは溜息をひとつ。

バラティエで見た昔の鷹の目の面影と、少女に微笑む鷹の目の姿が、

2人の脳内をぐるぐると回っていた。



少女を横抱きにした鷹の目が、2人の後についてくる。

内心冷や汗だらだらな2人は、自分たちの船が近くにあった事に心底感謝した。

買い物帰りに変な拾い物をしてきた2人を、常識ある4人は無言で見つめ、

船長は、おう、鷹の目だぁ、などと叫び、船医はあまり気にしてない様子。




「邪魔をする」

「・・・・・な・・・・に」

「チョッパー」

「うわ!!病人じゃねぇか!!医者ぁぁぁ!!」

「お前だ」

「頼む」

「おっおう!そうだ!!」




あれよあれよと医務室に消えた鷹の眼と少女。

連れ帰った2人に群がるクルー達。

当たり前といえば当たり前。




「ちょっと!!なんで鷹の目?!」

「市場で見かけてつけた」

「命知らず!!!」

「いいじゃねぇか。別に」

「病気のレディはほっとけねぇ」

「船壊されちゃったらどうすんのよ!!」

「航海士さん、平気みたいよ?」

「え?」




マントを翻し出てきた鍔広帽子の剣豪は、

あぐらをかいて、医務室の前に座った。

それ以上は動かないという意思表示だろうか。

そもそも、あの強面が少女を連れていたことに疑問を覚える。



命知らずな船長は、近づいて、ぽんっと肩を叩いた。

顔の青くなる船員を、常識人良くぞと賞賛しておこう。




「なあ、あいつ誰だ?」

「俺のものだ。船医を借りたことには感謝する」

「病気か?」

「・・・・・」

「チョッパーはすげぇんだ!絶対治るぞ!!」

「ああ」




ふうわりと笑う鷹の目をつくったのは、

絶対にあの少女だと、麦藁海族団の全員は思ったという。

ただの風邪で、薬を飲めば明日にでも治ると言い切ったチョッパーに

深く頭を下げたミホークは、一度出てきた医務室内へと歩を進めた。






「・・・・・ん?」

「苦しくはないか?」

「しんどいよ。不安だし、泣きたい」

「・・・・・・・・」

「でも、ミホークがいてくれるから平気」

「そうか」

「ね、呼んで」






君の発する名前の響きが、何よりの薬。

氷枕の上で気持ちよさそうに微笑む。

大好きと唇が動いた。

そっと口付けを落としてやり、布団を綺麗にかけなおして、

ベッドの脇に自分のスペースを作ったミホーク。




「ここにいて?」

「当たり前だ」

「でも、さっき出てった」

「診察には集中力を要する」

「そうだね」













次の日の朝。

元気になった少女を見て、麦わら海賊団は一安心した。

緊迫した空気に包まれた一晩は、そりゃあもう酷いものだったから。

鷹の目の腕を放し、チョッパーの前にかがんだ少女。




「ありがと。治してくれて」

「褒めてもなんもでねぇぞ!このやろう!!」

「うん。知ってる」




そのままサンジとゾロのそばに行くのを、

眉間のしわを増やして見ていた鷹の目だったが、

なにもしようとはしなかった。

に嫌われては困る。

その一心で。




「サンジもゾロもありがとう。
あのままミホークの船にいたら、キッチンが大惨事になってたトコだった」

「姫君のためなら」

「俺の名前を誰に聞いた」

「さて、誰でしょう」






そろそろ我慢の限界だったらしい鷹の目の呼び声。

答えを得ぬままに去っていった少女。

待っているのは、哀れな林檎とキッチンの片付け。

けれども3時で呼ばれれば、いつもどおり、珈琲を持ってあの人の膝の上。