ゆうらりゆうらり今日も変わらず進む、鷹の目の船。

道連れを膝に乗せて至福の時を過ごしていた、ミホークの耳に、

大砲の音がずどーんっと聞こえた。




「敵襲だね」

「・・・・・っち」

「舌打ちしないで頑張って来て下さい」




しぶしぶ、本当にしぶしぶ立ち上がったミホークは、

近づいてくる、まあまあ大きな船に向かって刀を振りかざそうとした。

聞こえてきた言葉に、途中で止めざるを得なかったのだけれど。




「鷹の目の女はどこだ」

「船内に見え隠れしてやがる」

「これじゃ近づけねぇぞ?」

「標準だけ合わせときゃいい」

「これで鷹の目を殺れるのかよ」




ゆっくりと振り返った先では、

がいそいそと昼食の用意をしている。

自分がそばにいて欲しい我侭で、を船に乗せて早幾月。

“鷹の目の女“と言われるには、十分過ぎるほどの時間が流れた。

家事しか出来ないと言ったを守るのは自分の役目。




「けしからん」




ぶんっと一振り。

綺麗に真っ二つに分かれた船体とさよならして、

キッチンの中へと歩を進める。

戦闘時の凄まじい音には慣れたようで、

は何を気にすることもなく野菜を切っていた。

後ろから抱え込んでやれば、顔を歪めてお決まり文句。




「ご飯遅くなる」



「聞いてるの?」



「なに」




もうと言った風に包丁を置いてこちらに向き直る。

そっと口付けを落として、2度目は少し貪る様に深く。




「これから上陸しても外に出るな」

「ヤダ」

「ならん」

「じゃあ、クザンさん呼ぶ」

「なっ!あいつと連絡を取っているのか!」

「鷹の目に捨てられたらいつでも連絡頂戴よって」

「いつだ」

「この前の島でミホークが買出し行ってる最中」




外に出しても危ない、残していても危ない。

だったら、四六時中一緒にいるしかなくなってしまった。

むしろそっちの方が嬉しいのだけれど。

するりと離れて食事を待つ。

次に上陸するのが、休暇島である事など忘れて。














「うわぁ・・・」

「気に入ったか」

「うん!素敵!!」




無邪気に走り回る姿に笑顔。

海軍がうじゃうじゃいるが、無法者よりは自分の顔と権力を振り回せる。

少しの間、ここで休んでいてもいいだろう。

ミホークはそう考えていた。




「ねぇ、その辺り見てきても・・」

「俺が一緒に行く」

「心配しすぎ。周りにいるのは軍人でしょ?」

「だからだ」




青雉のような者が出てきてからでは遅い。

後ろから着いてくる鷹の目に少し不機嫌ではあるが、

久々に降り立った大地に対する喜びにかき消されたようだ。

ショウウィンドウを除いては、年相応になるを、

抱きしめたい衝動に駆られながら、周りから聞こえてくる声に殺気を飛ばしと、

かなり忙しいお出かけタイム。




?」




ふと見上げれば見知った姿がそこにはなくて、

辺りを見渡してもそれらしき影すら目に入らない。

本日何度目の舌打ちかをかまして、ミホークは走り出した。




「ミホーク?」




目前の店から出てきてみればいなくなっていた道連れ。

走り去って行くマントは目に入らなかったらしい。

はぐれたのなら致し方ない。

久々に手に入れた自由時間を満喫しようと、ウィンドウショッピングを再開する。




「おい、あれ」

「あんな小娘が?」

「まさか」

「大将殿が言ってた外見と同じだぜ?」

「天下の鷹の目が幼児趣味とは」




むっとするような会話を聞き流せ聞き流せと自分の耳に命じて、

じろじろと見てくる海軍下っ端の集団をやり過ごそうとする。

それだけに神経を集中していたものだから、

引かれた腕に転んでしまったのは仕方がないといえよう。




「・・・・・海軍って礼の一つも弁えないの?」

「これは申し訳ない。あの鷹の目殿のお連れ様と聞いていたので」

「体制ぐらい立て直せるかと思ったんですよ」




にたにた笑いはそこらの無法者と変わりない。

落ちぶれた軍が平和を語るのは、至極滑稽に思えてきた。




「どうでもいいけど、腕離して。暑苦しい」

「言葉の教育はお受けになったんですか?」

「ミホーク殿は無口でありますから」

「うっさいな。そうゆう稚拙な物言い嫌いなんだけど」

「調子に乗るなよ」

「いくら鷹の目の女っつったってなぁ?」

「阿呆らしい」




くるりと踵を返してすたすたと行く筈だった。

そんなの腕をもう一度掴んだ海兵達。

ため息つかざるを得ない状況とはこのこと。




「暑苦しいの意味わかってる?」

「調子に乗るなの意味わかってんのか?」

「誰が、いつ、ミホーク名前出しかしら?
私の意見を述べてるだけで調子に乗ってるっておかしくない?
持ってる語彙を辞書で調べてみてはいかがですかね?」

「なんだと!!」

「切れやすいのはカルシウム不足?」

「黙れこの・・」

「この、なんだ?」




びくりと震えた肩。

圧し掛かってくる重圧。

冷や汗が地面に落ちたのと同時に、ゆうるりの腕が解かれた。

眼光だけで人を殺せそうなほど怒った鷹の目がそこに。




「ミホークどこ行ってたの?」

「迷子になったのは主であろう」

「そこの店にいたよ。勝手に早とちりしたのはミホーク」

「だが、これからは必ず俺が着いて行くからな」

「杞憂。言葉でなら負けないもんね」

「その言葉が通じぬ輩がいるやも知れん」

「そういう時はミホークが見つけてくれるんでしょ?」

「判った」




仕方ないと微笑んだときには怒りが消えていて、

完璧に忘れ去られた海軍たちを通り過ぎ、腕を組んだ2人は船へと向かう。



鷹の目の女に逆らうべからず。

いつどこで、彼が見張っているか判らぬから。

用心用心鷹の連れに用心。

外に出るときゃご用心。