憎たらしいほどの青空が広がる夏島で、
ぱしゃんっと水のはねる音。
真っ白な水着に身を包んだの姿。
それを微笑ましげに見やるおっさんは、胡坐をかいて木陰に座る。
「この水着、ホントに可愛い。ありがとミホーク」
「うむ」
「そろそろお昼つくりに戻るね。ミホークどうする?」
「この先に湖畔があったな。そこで鍛錬していることにしよう」
「じゃ、作り終わったら呼びに行く」
ぱさりと自分の持っていたバスタオルをかけてやり、
船に戻っていくを見送った後で、自分は森の中へと歩を進めた。
そこで帆船に気づいていれば、あんな事にはならなかったのだろうけれど。
の水着姿に脳内を花びらが舞っていた彼にとっては、
少しばかり無理な期待だったのかもしれない。
「さて」
キッチンに戻ってお昼の準備。
これだけ暑いと食欲も失せるというもの。
自分があまりこってりしたものを好まないという理由で、
メニューは冷製スパゲティに決定。
前の島で強請って買ってもらった好物の梨で、シャーベットを作るのも良い。
ショートパンツを履き、パーカーを羽織っていざ料理を始める。
ミホークがあまり変わったものを食べない・・・・。
というより、自分が食したことのあるものしか食べない性質を理解して、
いつでも王道料理ばかりを作っている。
それでも、美味しいと食べてくれる彼がいるからこそ、毎日作っていられるのだ。
料理を口元に運んだときのなんともあどけない笑みが、
を嬉しくさせているし、この頃は後片付けが出来るようになった。
なんだか子育てしている気がしないではないが・・・・・。
この船にやって来た時の混沌とした部屋を見ていれば、
自分がいて、彼が変わってくれたのなら、喜ばしいことこの上ない。
「ん?」
耳に入ってきた波を切る音に振り返る。
あまり人の近寄らぬ島だと聞いていたから、
気のせいかと、最後の仕上げに入った。
あの男が、気配を消すなんて高等な技を見につけていなかったら。
もしあの時、が船の外に出て確認していたら。
まあ、いろいろあれども、もしなんて意味のない事を考えても、
今の状況は変わらない。
「鷹の目、いつからそんなにやわらかくなったんだよ」
スパゲティが盛られたお皿を持ったまま、後ろから抱きすくめられている様。
料理の最中、抱きつかれるのに慣れているとは言えど、
流石にこれは・・・・・。
「聞いてんのか?」
燃えるような赤い髪と、目隠しに使われた白い布が眼に映る。
ぺったぺったと手で身体の感触を確かめている男。
それが誰かわかっていたとしても、にはどうすることも出来ない。
「あの、すみません」
「おいおい、その女みたいな声は何の冗談だ?」
「ミホークなら島の湖畔で鍛錬中ですけど。えっと、シャンクス・・・さん?」
「あ?」
「多分もうすぐ帰ってくると・・」
「、そろそろ・・・・」
じゃきっと音が聞こえてきそうな勢いで黒刀を抜くミホーク。
赤髪の端から見え隠れするの肌と、
かなり密着している2人が目に入れば、
殺す手順はもう、頭の中で組み上がっている筈。
「貴様、死ぬ覚悟は出来ているのだろうな?」
「なんだ?」
「にそこまで・・・・」
今になっても目隠しをとろうとしないのが、
シャンクスの良いところか悪いところか・・・・。
既に抜き終わっている黒刀が、鈍く光った。
「ミホーク。それ以上、黒刀動かしたらお昼ごはん抜きだからね」
「何故だ!」
「私をミホークだと勘違いしたんだから仕方ないでしょ?」
「しかしだな・・」
「しかしも何もないの。シャンクスさん、とりあえず目隠し取りますよ?」
するりと布が解かれれば、自分の目の前にいる、
鷹の目にしては小さ過ぎる身体と、
今にも襲い掛かってきそうなくらい殺気を飛ばしている鷹の目の姿。
「・・・・・・・・・」
「腕、解いて頂いて良いですか?」
「あ、わりぃ」
「ほら、ミホークも刀仕舞って」
「・・・・・・」
「スパゲティ要らないの?」
「食す」
「じゃ、仕舞って。殺気もだからね」
刀を仕舞い終わって、
殺気をさらに増大させたままテーブルに着こうとしたミホークに釘を刺す。
不味い食事なんて最悪極まりない。
「お〜い御頭!鷹の目への奇襲攻撃上手くいきまし・・た・・・・へ?」
「ルウ、肉を拾え。肉を」
「あいつ等の言っていた事も嘘では、なさそうだな」
わらわらと入ってきた幹部たちに、
ミホークはフォークを折りかねない勢いだ。
「ミホーク」
「これでもか」
「これでも」
ね?とが微笑めば、フォークを置いて、なんとか殺気を仕舞いこむ。
ルウもヤソップも、シャンクス同様、口をあんぐり空けて、
なんとも滑稽な格好でたたずんでいるのと反対に、
ベックマンは想像していたとばかりに落ち着いていて。
「いらっしゃい」
「悪いな。昼時に邪魔して」
「いいえ。お昼はどうされるんですか?」
「自分たちのところで済ましたからな」
「そうですか。あの、食事、続けてもかまいません?」
「すまん」
ほら、とフォークを差し出して、
不機嫌極まりないミホークを、食事へと促す。
自分を凝視する6つの瞳を無視して、
礼儀正しく挨拶してくれた副船長には、お茶と椅子でおもてなし。
「鷹の目が、少女にご執心だと、とあるゴロツキが話していたな」
「そうなんです・・」
「堅苦しい言葉は抜きにしてくれ」
「あ、うん」
「どういうことだ」
「あんたと嬢ちゃんとの関係が知れ渡ってるって事さ」
「だからこの前も危なかったんだ・・・・」
「俺の所為か」
「違うから。気にしないの」
「しかし・・」
「しかしも何もないって、さっきも言った。怒るよ?」
「すまぬ」
3人の意識が帰ってくるのは、大分と先になりそうだ。
こんなに従順な鷹の目は、自分達の知っている鷹の目じゃない。
「それより、鷹の目」
「なんだ」
「いつも嬢ちゃんに、こんな刺激的な格好させてんのか?だとしたら・・」
「・・・・忘れてたんだって」
今気づきましたというように、
白ビキニの上から、ショートパンツとパーカーのみのを、
上から下まで凝視した鷹の目。
「。今すぐ服を着ろ」
「着てる」
「いつもの服に着替えろ」
「イヤだ」
「ならぬ」
「折角ミホークが買ってきてくれた水着着てたいって思うのはいけないの?」
「うっ・・・・」
強者。
赤髪海賊団一、頭の切れるベックマンがそう思ったのだから、
相当なものなのかもしれない。
「邪魔したな。すぐに連れて帰る」
「別に良いのに」
「さっさと連れて帰れ」
「ミホーク!」
「御頭、帰るぞ。御頭?」
「っ・・・宴だ!!!!」
「は?」
「鷹の目!!やっと女の魅力に気づいたか。俺は嬉しいぞ!」
「寝言は寝て言え」
「うんうん。なかなかな嬢ちゃんじゃねぇか。宴の準備しろ!!」
「おい!!」
外では、宴の準備しろ〜と木霊していて、
なにやら隣の船がざわつき始めている。
「逃げんなよ鷹の目」
頭を抱えるミホークと、
申し訳ないと頭を下げるベックマン。
ずっと上の空だった3人は駆け出していて、
宴、楽しみだね。と、が笑った。