しかめっ面をしていても、
ミホークがとても機嫌が良いのが目に見えて判る。
本当に、良い友達・・・
「、俺の船に来いよ!」
「もう一度でもの名を口にしてみろ」
「さあ、俺好みなんだよなぁ」
「貴様!!」
友達・・?
「切り殺してやる」
「やれるもんならやってみやがれ!」
「止めろよ御頭!!船が壊れちまう!!」
「後は頼んだ!」
「頼まれたくねぇよ!!!」
「修繕できなくなっちまうぞ!!」
黒刀を振り回しながら、赤髪を無邪気(?)に追いかけている鷹の目。
まあ、なんにせよ、彼が上機嫌ならそれで良いと思えてしまう。
静かなところに始まってすぐ非難して来たは、
常識ある副船長と、ワインを掲げていた。
「未成年だな?」
「日ごろ飲まされてるから、平気」
「なるほど。いつ頃から鷹の目と?」
「忘れちゃった。結構前かな」
「そうか」
「苦労してるんだね。色々と」
「お互い様といったとこじゃねぇか」
「そうかも」
くすくすと笑いながら、ちょっぴし破損した船に目をやって立ち上がる。
鷹の目は未だに、赤髪と追いかけっこ中だ。
「ミホーク」
ぴたり。
くるりと振り向いて、ふらりともたれて、
がつぶれるのではないかと思うほど、力強く抱きしめた。
おおっと歓声が上がる中、
事も無げに、先程までミホークが飲んでいた場所まで連れて行く。
「おっしゃ鷹の目!飲みなおそうぜ」
杯を掲げてお酒を滑らせていく困ったおっさんを見て苦笑。
歪んだ顔が目に入る。
ぽふぽふといつもと逆に頭を撫でて、
自分の船のキッチンへと赴いた。
必要なのはレモンとライム。少しの蜂蜜と氷。
シャリシャリと砕いた氷に、蜂蜜と水をかけて、
レモンとライムを搾った上に乗せてやる。
スムージーもどきの出来上がりだ。
「まったく。世話の焼ける」
勝負事となれば、子供のようにはしゃぐ彼。
それが赤髪とのなら尚更だろう。
きっと今も、顔をゆがめたまま杯を重ねているんだ。
からんからんっと子気味いい音を立てての手の内に納まっているグラスは、
ミホークの口に運ばれるのを今か今かと待っている。
上手い事甲板まで上ってみれば案の定。
彼の手の中の杯には、今もなみなみとアルコールが注がれている。
もう一度肩を落として、ミホークの元へと進んだ。
「その辺でおしまいにして」
「なんだ?お前の負けか?」
「ふん。まだまだ・・」
「ミホーク?」
「勝負事だ。負けられん」
「そう。じゃあ、これは用なし?」
からりと目の前に差し出された、
自分の大好きな特性ジュース。
酸っぱさとさっぱり感が、酔った身体にちょうど良い。
鷹の目が伸ばした手は、空をきることになるのだけれど。
「、くれぬのか」
「お酒はおしまい」
「無理だ」
「じゃあ、これはなし」
「それもならん」
「どっちか」
「どちらもだ」
駄々をこねる子供のようにを睨む。
酔ってしまった金色の瞳は揺れていて、威厳も何もあったものではないけれど。
しばらく攻防を繰り返してれば、隣から聞こえてくる大きないびき。
「なんだよ御頭ダウンか!?」
「昨日も飲みっぱなしだったからなぁ」
「意外と弱いんっすね」
「ほら、もうおしまい」
「・・・・うむ」
「帰って、これ飲んで、寝ること」
「・・・・・・」
「明日どうなっても知らないからね?」
「わかった」
「ん」
よしよしと優しく撫でれば、素直に立ち上がる鷹の目を、
幹部たちは溜息と共に見送った。
見えなくなれば、くるりと振り向いて、赤髪の傍へと腰掛ける。
「ありがと」
「どういたしまして」
「貴方なりの償い?」
「年頃の嬢ちゃんに抱きつくのは、ちょっとな」
「あの赤髪でもそうゆう事考えるんだ」
「どんな俺を想像してたんだよ」
「自由奔放。唯我独尊。見た目は大人、頭脳は子供」
「ひでぇ・・・」
「的のど真ん中を得たような描写だ」
「ベン!!」
「そのとおりだろう?じゃなきゃ俺がこんなに苦労するわけがない」
どっと笑いの起こった甲板。
空になったグラスにワインをついで、乾杯。
「しっかし鷹の目が酔うなんてな。信じらんねぇぜ」
「年だもん」
「といくつはなれてんだ?」
「さあ?3回りくらいじゃない?」
「・・・・・すげぇ年の差カップル」
「あたしが気にしてないから問題なし」
「ちげぇねぇ!!」
もう一度ワインで乾杯して、
はミホークが待っているあの船へと移動した。
赤髪の船では、いまだにどんちゃん騒ぎが続いている。
「ミホーク?」
「・・・か」
「気分は?」
「あまり良くない」
「でしょうね。あれだけ飲んだんだから」
「すまぬ」
「私に謝っても仕方ないでしょ?」
さらさらと風に当たっているのが気持ち良いのか、
甲板で胡坐をかいて座る大剣豪。
空になったコップに、今度は冷たい水を入れて自分も隣に腰掛けようとした。
ひょいっと抱かれて、膝の上に座ることになるのだけど。
「しんどくない?」
「無論」
「無理しないでね」
「多少の無理は仕方あるまい」
「・・・・ずっと一緒にいたいの」
それは叶わぬ願いだと知っているけど。
それでも願わずにはいられない。
彼が、自分の存在を必要としてきたその時から。
「ミホークの生きる時間が延びるなら、なんだってする」
少しの苦労くらい、なんてことはない。
自分の望みのために。
「」
今にも泣き出しそうな道連れに、口付けを落とす。
軽く舌を入れてやれば、向こうから求めてくれるようになった。
絡まりあう舌も、音を立てて着いたり離れたりする唇も、
船に打ちつける波も、遠くなった宴のざわめきも、
2人にとっては、時を刻む無常な音色。
「愛している」
「うん」
「愛している」
「知ってるよ」
「」
「なぁに?」
「お前はどうなのだ」
「聞きたい?」
「うむ」
「教えてあげない」
「なに?」
「無茶しなくなったら教えてあげる」
少しばかり策士になった道連れを抱いて、
ゆったりとした眠りの時間を、2人は過ごし始めた。