会うことなどない。

此の、狭広い世界で。

捜すことをしなければそう。

会うことなどない。




「黒髪赤目?そんな人いたら直ぐに分かりますよ」

「有り難う御座います」




此処でも収穫無し。

か。

若しくは人ならざるものなら、

知っているのかもしれないけれど。




「この街に宿は?」

「あそこに一件あるだけですね。此処はしがない下町です」

「どうも」




にっこりと笑う初老夫婦に頭を下げる。

長い長い生の中、一瞬で良い。

見つかればよい。

見つめ合えればよい。

モノノ怪と自分のように。




「お爺さん、身体にさわるよ」

、お帰り」

「ホント、お外が大好きね」

「空気を感じたいからね」

「そう。山菜の吸い物、飲む?」

「頂きましょう」




にっこり笑って、ずっと笑って。

目の見え難くなった2人。

とけ込めば、さよなら出来ると想った。

たった2人、この人達だけに、必要とされればと。




「嗚呼、、これ、お宿さんに届けて下さいね」

「分かってるよ。いつものでしょう」

「御願いします」




ひなたぼっこが大好きな、何にも知らない人。

あたたかいことが寂しいなんて、想いもしなかった。




「それじゃあ、ちょっと」




綺麗な御着物をしまって、

下町にとけ込める格好をした。

此処でも一緒。

塗りたくって、被りたくって。




「なあんにも変わって無いじゃない。ってね」








「お食事は下の大食堂でお取り下さいませよ」

「わざわざ、どうも」




下町のお宿は、彼女が好んだ場所。

皆が知らぬうちに必要とし、されている場所だから。

ほっとするのだと。




『もう、止めたらどうだ』

「真を求める旅は、変わってやいませんよ」

『それが人になっただけ、だと?』

「違いはありません」




彼女に言わせれば。

だが。




「とにもかくにも、腹が減ったら、
うっかりうっかり、殺られてしまうかも、しれませんね」

『勝手にしろ』




なんと口数多きことか。

結局の所、彼も、彼女の真を求める一人だという事。

階段を降りて、教えられた食堂へと歩を進める。

捜し求めていた声に、歩みは止まってしまうのだけれど。




「番頭さん、持って来たよ」

「いつも悪いね」

「気にしないで。代わりに沢山貰ってる」

「そうだ、じいじとばあばは悪いところ、ないのか?」

「平気。いつも通りの日向ぼっこ生活」

「そうか。なら良いが」

「どうして急に?」




目深に被った頭巾。

目が悪いのだと偽った、新しい、私の真。




「腕の良さそうな薬売りが泊まってんだ」

「そう」

「ま、無いならそれに越したことはない」

「そうだね」

「ホント、いつもありがと!ちゃん!」

「はあい」




揺れることはない空気。

これっぽちも自分だとは想ってない証。

会わないと、そう、自分を捜しているなんて、

想っても見ないのだろう。









彼女の足が止まった。





「私を、切る?」

「何故?」

「真と理、手に入れたんでしょう?切ってよ」

「お断り、します」




2人だけの時間が流れる。

此処は何処だっただろう。




「そう。それじゃ・・」




折角見つけた獲物を、逃がしてたまるか。

きつくきつく、彼女の腕を掴んだ。

きっと痕が付いている筈。




、逃げないで、下さい」

「有り難う」

「満足、ですか」

「とっても」




その瞳は、私しか見ていなかった。

その一瞬が欲しかった。




「それでは、次は私の、番、ですね」

「は?」

「私を、必要となさい」




その瞳を、自分だけに向けて。

自分だけを見て。




「そう。じゃあ、教えて」

「ええ。私の、真はーーーー」




互いに感じる体温が、融けて行く。

耳が熱い。

唇が熱い。

君だけが知る、真。

嗚呼、心地良い。

それだけで・・・・。