「別に、薬売りさんまで戻ってこなくても良かったのに」
「少々、お聞きしたいことが、あるのですがね」
「なんなりと」
「その瞳に、ついて」
「瞳?藍い瞳が珍しい?」
「女将さん、あんたの瞳は、確か・・赤」
「赤?私の瞳は藍だけど?」
どうしたものか。
確かに昨晩見たときは、
彼女の瞳は、燃えるような赤色だった筈。
「この瞳の何処が、赤に見えるのかお聞きしたいな」
「いえ、ただの勘違いだったようで」
「そ」
お茶をこぽこぽと淹れる。
「飲む?」
「頂きましょうかね」
「薬売りさんがいる必要、なくしちゃた」
「まだ、切れてやいませんぜ」
「切る必要、ないでしょう」
「恨み辛みを、貴方が浄化するから、ですかい?」
「浄化なんて人聞きの良いものじゃない」
ただ、誰かの何かになりたくて、
飛び出してきただけ。
話を聞いてあげるからと、
いつでも上から目線で、
それに着いて来てくれた純粋な彼等に、
居場所を与えて悦っているのは自分。
「薬売りさんの真と理は?」
「さあてね」
「良いな。羨ましい」
時を超え、
ただただ退魔の剣と共にある形が、
羨ましいと、彼女は言う。
「形は得た。後は、真と理」
かちんっ。
「?」
「言ったでしょ。此処に来る皆の真は、居場所がないからだって」
「そうでした、ね」
「薬売りさんの居場所は、その子達の隣なんだね」
「子達、とは?」
「その剣と、天秤と」
我が儘だと分かっていた。
だから笑って、隠した。
紅を引いた。
白粉を塗った。
いつしか、神主様だと崇められるようになった。
「先程の片輪車、女将さんと何か、関係が?」
「ないよ」
剣が振るえもしないので、
本当のことだろうと当たりを付ける。
「何が、どうしては必要ないの」
「真と理は必要ない、と?」
「要るのは・・・・」
「要るのは?」
「内緒」
貴方が、羨ましい。
「昼餉をつくってくるね」
しゃんなりと立ち上がって、
その場を後にする女将を、目で追う。
ここでモノノ怪は切れそうにない。
あってはならぬことを・・・。
『いつもの話術が聞いて呆れるな』
「収まっているだけの貴方には、言われたくありませんね」
『惚れたか』
「さて、どうでしょう」
『なかなか綺麗な娘だが、止めておけ』
「何故、と聞いておきましょうか」
『あれは、こちらのものではない』
そんなもの、この世に生きる、
総ての人に言えることだ。
そっと溜息をつく。
今日にでも、出なければ。
此処にいてはならないと、
昨日既に、分かっていた筈なのに・・・。
「理・・・・です、か」