晴れ渡った窓の向こう。

消えてしまった薬売り。

残された天秤がかたりと揺れる。




「これを頼りに捜しに行け、か、それとも・・・・」




りんっとなる天秤に手を伸ばす。




「これを形見にいなくなれ・・・か」




上を向き、乾いた瞳に目薬を落とせば、

眼の中の異物が少しだけ浮かんだ。

眼に張り付いた感覚はなくなっても、偽っているのは事実。




「限界。かな」







少し息を荒げて、

今し方モノノ怪につかれていた屋敷を見上げた。

嫁入りに用意されていた籠だけが、

外にあり、時を刻む。




己は何処に行こうとしているのだろうか。

彼女の待つ宿か?

痛む腕を握りしめた。

下など見ることはなかった。

彼女と出会ってから、終ぞ無いことが次々と・・・。




「痛いの?」




重なった影と、重ねられた手。

冷たい。

気持ちが良い。

のに、あたたかい。




「痛かったね」




分かっているのか。

この女は。

こいつが今、こいつでない事に。




「剣さんって呼ぶのはおかしいのかな?」




分かっているのに・・・何故。




「さて、ここじゃあ、手当も出来ない。
宿に戻るの?それとも進むの?」

「何故、此処へ来た」

「お薬さんが導を残していったから」

「何故、俺達に付きまとう」

「知りたいから。必要とされること」

「何故」

「必要とされたいから」




奇妙な、女だと思う。




「此方でも彼方でもないお前がか」

「滑稽?」

「・・・・・」

「剣さんにはないの?知りたいこと」

「ないな」

「嘘」




いつもいつも、真と理を求めているのは、

貴方の癖に。

瞳がそう、語っているのは、明白だった。

意識がない、わけではない。

動揺や焦りが伝わってくる。

遺憾だろうが何だろうが、真を共にするモノだからだ。




「去れ」 『共に』

「今直ぐに」 『永遠という時間を』

「俺達の前から」 『隣で』

「イヤ」

「何故」 『何故』

「違う。そうじゃない。そんなじゃない」

「何が」 『何が』

「必要と、される、事」




瞳は、紅かった。

偽らないと決めたから、

少しだけ惹かれていた時代と共に、

宿屋へ置いてきた。

頬を涙が伝う気持ち悪さ。

昼間の明るさが、それを嘲笑うかのようだ。




背を向けて歩き出した。

それが彼女の答えだった。