「何処だろね。此処」
目の前のあやかし。
寄ってくる、昔の片割れ。
ぽっかりと空いた、空間。
「お前も行くところがないのね」
「私もないんだ。いつも通り」
いつも通りの、振りをする。
「 」
聞こえない。
彼は、どんな声だったか。
ぽつり。
触れた肌が、痛い。
ぽつり。ぽつり。
さーーーーーっ。
「濡れてしまうから」
『君も、濡れ、る』
「良いんだ」
人前で泣くのは嫌いだった。
人前で泣きわめく子供も大人も嫌いだった。
女なんて、そう想った。
傘も広げず、上を見上げる。
涙を流す。
「泣いてるかどうか、解らなくなるから」
『ひ、と、り、で?』
「・・・・・・・・そう」
降り続ける雨。
遮られない雨。
静かな雨。
冷たい雨。
「良いな。お前は。取り込んでくれる?」
『イ、ヤ、ダ』
「だろうね。その白い肌・・・」
『ダレ、に、似ている?』
「困った女将さんだ」
「失礼ね。貴方達に。まだ見下していたいんだよ。
その方が、楽ちんだったな。みんな解ってたんだろうなあ」
『さあ、ね』
全て貴方の所為だと言えば、
きっと彼はそうかも、しれませんねえと、笑うのだ。
真と理を知り、真と理を捜すのだから。
さーーーーーーっ。
容赦なく、降り続いている雨。
濡れてしまった着物。
ぽたり。
ぽたり。ぽたり。
「・・・・・・・・・っ」
呼びたいのに。
声を張り上げて呼びたいのに。
見放した。
想いで、心で。
「貴方がいなければ生きていけない。貴方になりたかった」
言葉にしなくたって。
なんて。
『サ、ム、イ』
「そうだね。寒いね。何言ってんだろうね」
貴方は必要とされてるんだからね。
言って欲しかった。
感じさせて欲しかった。
分かり切ったら満足した。
何も解らずに必要とされてる貴方達が、
妬ましかった。