「ちょっと、そろそろ離してくれない?」
「問題ない」
「あるから言ってるんだけど。聞いてる?」
「何の話だ?」
「君の話だよ」
こんな会話を昼から一体何時間続けたら、
空が真っ暗闇になるのだろうか。
何時間か前まで隣にいた金髪は、
何時間か前に帰ってしまっている。
今日の修行は無理だとかなんとか言って。
明日、咬み殺してやる。
「兄さん」
「ボクは君の兄さんじゃないし、
君の方が明らかに年上。離して。咬み殺すよ」
「誰をだ?」
「だから君をだって言ってるでしょ!」
頭が弱いにも程がある。
かといって咬み殺せていたら、
何時間もの膝の間におさまっているはずがない。
「嗚呼、始まったな」
そう言って、向こう側を見つめる彼の目は、
今まで見たどの彼の目より、
訳が判らないほど濁っていた。
「よし行こう」
「離してから行きな・・って」
「なんだ?気絶させた方が良かったか?」
「どこがどうなってそうなるわけ?」
「いや、怖いなら気絶させた方が早い」
「屋上から飛び降りて無事でいられる君は人間じゃないと思うよ」
「そうか。俺はドールだったのか」
「ねえ、比喩って言葉知ってる?」
「ひゅう?」
「なんで擬音になってるの」
雲雀を抱えたまま、
顔面ダイブも吃驚な飛び降りを披露し、
ちなみに言っておくなら、先程の会話は、
が屋上を蹴り、
地上に着くまでに行われたものであることを明記しておこう。
何事もなかったかのように、
リング争奪戦が行われているのであろう場所へ向かう。
今だ猫宜しく前向きで抱き上げられている雲雀は、
藻掻いてみるものの、
やはりその腕はいっこうに解けない。
には、雲雀がマーモンに見ているのかもしれない。
「この体制きついんだけど」
「それならそうと早く言え」
普通は誰だって、
脇に手を入れられて抱き上げられた状態だと、
痛くなってくるものなのだが。
そして、何故、
今自分は、
にいわゆるお姫様抱っこなるものをされているのか、
10文字以内で説明して欲しい。
「これなら楽だな」
よし飛ばすぞ。
とか、勝手に自己完結を済まし、
すこぶる満足のいったという表情をしたは、
10文字以内で説明してくれたけれども・・・。
少し早足になりながら、
まばゆいばかりの光を目指す。
雲雀は、今まで誰も見たことのない様な間抜けな顔で、
の腕の中揺れていたとかいないとか。
「遅刻か?」
真顔で雲雀を姫抱きにし、
ルッスーリアが倒れたリングを見ながら、
すたすたと寄ってくるを、
誰が突っ込めたことだろう。
「遅かったね。」
「嗚呼、兄さん。少し早めに来たつもりだったんだが」
少し遅めの間違いではないのか。
既に決着の付いたリングには、
誰一人として視線を向けていない。
「それより、それ何処で拾ったの?捨てておいで」
「ちょっと其処の赤ん坊、咬み殺してやるから来なよ」
「恭弥、だめだぞ?兄さんを咬み殺しても美味しくない」
「そうゆう問題じゃないよ。」
「そうか?」
「降ろして」
「面倒くさい」
「何処が!」
「?」
「なんだ兄さん」
「飼えないからね?」
「本気で咬み殺す」
拝啓 雲雀さん
お姫様抱っこされたまま言っても、
まったく迫力がありません。
守護者一同の心が一つになった瞬間だった。