銃弾は誰を貫いただろう。

それは駒だったのだろうか。

チェックメイトは既に、済んでいたというのか。

空気すら動いていないような静けさの中で、

ただ、人の倒れる音だけが、

イヤに、響いている。




・・・?」




彼女の名前を呼んだのは、

誰だ?

手を差し出して、その身体を抱き起こしたのは、

誰だった?

よろよろと、キングが盤上を降りる音がする。




「後は宜しく」




確かにそう、口は動いた。




「そいつを確保して、嗚呼、その女もね。
後々、事情はたっぷり聞くから」

「雲雀」

「なに?」

「お前、知って、たのか」




肯定を表すように、首が縦に振られる。




「てめえっ!!」

「莫迦。隼人」

っ!!」

「静かにして。傷に響く」




10年前もそうだった。

自分は只、彼女から出ている紅い色に恐れをなして、

助けを求めて叫ぶだけしかできなかったのだ。




「治療は?」

「必要ないよ」

「そう。それじゃあボクは仕事に戻るから」

「どうぞ。ご自由に」

「どうゆう、事?」




ただ微笑みが送られただけだった。

静かに閉じられていく瞳にまた、

彼女の名前が、部屋全体に木霊した。








「あそこまでやるとは聞いてねえぞ」

「リボーンさんも、知らなかったって事ですか」




命を刻むリズム。

あれだけ火を噴いていた抗争が、

今じゃ何事もなかったかのように沈静されている。

ゲームは始まるまもなく終わらせられたのだ。

たった1人の女によって。




「ねえ、リボーン」

「なんだダメツナ」

、さん、は」

「ボンゴレ、だったぞ」

「それって、俺が・・・」




いつだったか。

君が書類上、自分のつがいになっていることを知ったのは。

けれどそれは信じられたことでもなかった。

だって君は、俺の元に現れさえしない。




そうだ。

恐れている振りをして、

全てを忘れ去っていたのは自分達。









初めて口にしたつがいだった人の名前。

嗚呼、なんだろう。

この安心感は。

自分は、自分の手で、この人を何処かへやってしまった。




「ツナ、どんな具合だ?」

「まだ、目を覚まさないよ」

「そう、か」

「何しに来た」

「俺はが心配で!」




心配する権利など無い。

そんな権利など要らない。

と、なら言うのだろうが、ダメだ。

やっぱりダメだ

俺は、許せない。




「まだ眠ったままなのかい?」

「随分な怪我でしたから仕方ないでしょう」




彼女に引きつけられるように人が集まる。

人になりたい人が集まる。




人とはなんぞや。

ヒトとはなんぞや。

その場に在ることが生命だというなら、

其処に在ることを証明できるモノはなんぞや。




あたしは誰にも証明されない。

だったら、ねえ。

人ではないの。

そして認められないの。




獣とはなんぞや。

塵とはなんぞや。

ヒトでない者とそうでない物の境がないなら、

人で在るモノとはなんぞや。




何にも繋ぎ止められない掌に、

あたしは銃を持つことを選んだ。

其処に在るためなら、

なんにだって逆らおうと決めたのだから。