彼女がひらりひらりとかわせばかわす程、

怒りが、恨みが充満していくのだ。

この狭い狭い、学校という檻の中に。




「ホント、図太い神経してる」

「まじで死んで欲しいんだけど」

「てか、もう人間じゃないだろ」

「ああゆう奴って、本気で要らないよね」




きゃはははと響く声。

なんて心地良いのだろう。

自分がいなくなれば又、普通に戻ってしまうと言うのに。

楽しんでる楽しんでる。




教室に入れば、今日も今日とて机がないので、

立ちっぱなしで授業を聞き流す。

自分に向けられる殺気と戸惑いが、可愛すぎて、

思わず笑ってしまうくらいだ。




「何笑ってんだよ。今、授業中だぜ?」

「声を出して、君の学問享受を妨げた覚えはないよ」

「存在が邪魔なのな?」

「そこまであたしを意識してくれてるんだ?」

「ちっ!」

「(言葉であたしに勝とうなんて、無謀。嗚呼、可愛い)」




子供が、悪戯で、刺してくるくらい、

何ともない。

日に日に悪質になってくるかと思えば、

中学生の頭などたかが知れているところ。

雲雀恭弥も頭は切れるが、ただの子供だ。




「(飽きてきたな)」




この状況も。

少しの間すら、自分の脳に残ることはないのだろう。




「獄寺返せよ」




ぼそりぼそりと、

そうやって恨みをぶつけることしかできないポーンとは、

そろそろさよならしなくては。

掃除時間の教室に響く、鈍い音と共に、

の頭は次の段階へと、エンターキーを押した。








「そろそろ落ちてくれない?飽きて来ちゃったんだけど」

「何を言ってるんですか?」

「もういいって言ってんのよ。鬱陶しい」

「果たし状をたたきつけたのに、ホント、身勝手な女王様ですね」




呼び出したのは自分だ。

放課後、彼等は今も待っているだろう、私の帰りを。

こんなにも、こんなにも周りは思い通りなのに、

目の前にいる全てに掴み所がない。

その笑みすら、余裕綽々で、

自分の駒にならないこいつなんて。




「獄寺君は、まあ、どうでもいいけれど」

「そうですか」




あの、頭の良いキングを捨てるなんて、

やっぱり君は莫迦だ。




「もう、ここまでやらすなんて流石と褒めてあげるわ」

「有り難う御座います」

「でも、もう終りね」




振りかざされた刃が、女王様自身の腕を貫く。

ぽとり。ぽとり。

金切り声なんて聞こえない。

ただ、

ぽとり。ぽとり。




「京子!どうした・・なっっっ!!」

ちゃんが・・・・っっ!」

「笹川先輩!動かしちゃダメだ!」




悩め悩め悩め。

転がり落ちる凶器が知る、

彼女の前でしてはいけないタブーを、

お馬鹿な女王様が犯してしまったこと。




「お前マジで死ね!!そっから飛び降りろよ!!!」

「山本!そんな奴より京子が先だ!」

「笹川!しっかりしろ!!」




腕からしたたり落ちる血が、

ぽとり。ぽとり。




「ふふっ」

「何・・・笑ってんだ!」




殴るためにあげられた腕を、難なく止めて、

つかつかと、女王様の元へと歩む。

さあ、終わりにするとしようか。

君達の前に立つ事なんて、容易いのに。

突如、自分達の前に現れ、

立ちはだかったように見えるを、

女王様を支える2人のポーンは、凝視した。




「やっちゃいけないことやったね」

「そこをどけ!人間の風上に置けない輩がっっ!!」

「人のカテゴリーを決めるのは、あんたじゃないよ」




そう言って、力なく、

あさりボスに項垂れる彼女の頬を殴った。

本当に殴った。

鈍い、音が響く。




「許さない」

「許さない。許さないよ。
生きるための術を、こんな形で侮辱したんだから。あたしの前で」

「何・・言ってんだよ」




いつものへらへらした顔じゃない。

笑みが、殺気が、本気で。

廊下に崩れる形になった京子ちゃんの所まで行くことすら、

出来ないでいる。

其れが本当に殺気だけの所為だったかどうかは、

もう、知る術はないのだけれど。




「楽しみだね」




明日が。